薄給の大学病院勤務を「バカバカしい」と考える若手も
かつて開業医といえば、医師の世界からドロップアウトした人と見られ、お金は稼げるものの蔑まれている存在でした。家業を継ぐので仕方なく開業医になったという人、大学病院での出世競争に負けた人が多くを占めていて、自ら開業医になるという医師は、一昔前はほとんど存在しませんでした。
ところが、今や時代は変わりました。医局制度が崩壊し、薄給できつい労働環境しかない大学病院に居続けるのがバカバカしいと考える若手医師を中心に、開業も一つの選択肢であると考えて、積極的に開業や創業を目指す医師も増えています。
また、開業医でカリスマが増えていることも開業を目指す医師が増えている理由の一つです。たとえば、湘南美容外科のSBCメディカルグループ総括院長の相川佳之さん。日本大学医学部を卒業し、翌年美容外科病院に勤務してからわずか2年で独立を果たし、2000年に神奈川県藤沢市に湘南美容クリニックを開院しました。
2018年12月現在、83院(78拠点)を全国で展開。美容業界に一大勢力を築き上げ、美容外科を身近にした異色のキャリアを進んだ医師です。
相川さんのような開業を成功させる医師の登場で、開業はお金を稼ぐことだけでなく、自己実現の一つのカタチという価値観を持つ医師が増えてきたのも事実です。相川さんのような業界革新の医師も注目を集めましたが、一方で「ドクターコトー診療所」のような僻地医療に興味を持つ医師も増えています。また、紛争地域で働く、国境なき医師団に身を投じたいという医師の方もいます。さらには、医療をビジネスで変えたいという医師も増えているのです。
医師の間で、旧来の形にとらわれずに本当に自分のやりたい理想の医療を実現しよう、という思いが強くなっていることが近年の特徴でしょう。
超高齢社会で医療業界はどのように変わっていくか?
開業医と勤務医の大きな違いというと、収入の差もさることながら、仕事量のコントロールができたり、人間関係の煩わしさから解放されたり、自分のやりたいことや夢を実現できる「生活の質(QOL=Quality of Life)」が高いところです。
医局は未だに劣悪な労働環境があってヒエラルキーがあります。そして、大学病院は給料がそれほどいいわけではありません。
ただし、大学病院には最先端の設備がありますし、医局には人脈も豊富です。学術的な研究をしたいとか、最先端の医療機器を使って技術を向上させたいという目的意識がはっきりとした人には大学病院は良い選択になることもあります。
一方、市中病院では目的意識が希薄化します。市中病院は医師の給料は勤務した当初から高いため、出世をしてもさほど給料は上がりません。患者がたくさん自分のところに来ても給料が上がらず、モチベーションも維持できない医師も少なくないのです。
また、市中病院では臨床経験を積むことはできますが、研究施設ではないので最先端の医療機器が揃っているわけではありません。目標が希薄化して何をやっているのかわからなくなってしまう人も多いようです。
そうしたなかで、医療業界には大きな環境変化が訪れようとしています。超高齢社会です。
我が国の高齢化率(65歳以上の人口率)は2016年で27.3%です。2065年には、38.4%に到達し、国民の約4割は高齢者となります。
超高齢社会では治療よりも先に生活支援がメインになります。医師は病気だけを見るのではなく、患者や患者を取り巻く生活環境そのものを見ながら関わっていく必要性が出てくるのです。
また、政府も予防を含めて普段から相談できる医師、かかりつけ医を推奨していますが、医師の方でも開業医となってかかりつけ医になることが、自分が望んでいる医療を提供する道であると感じている人が増えている傾向にあります。
クリニック開業に必要な「時間」と「準備」とは?
では、開業のためにまずすべきことはなんでしょうか? 開業のための準備期間ですが、1年ぐらいを目処に準備期間を見ておけばいいと思います。
クリニックのコンセプトづくり
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クリニックの基本理念の絞り込み
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エリア選定→物件選定
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金融機関との融資相談
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許認可
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クリニック建設
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着 工
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クリニックオープン
このような流れで大体1年ぐらいの期間がかかります。ショッピングモールや医療モールに出店するとさらに早く開業をすることができますが、クリニックの規模として自分の目指す医療ができないなどリスクも高いのでエリア選定、物件選定は慎重に行うことが必要です。
まず自分のクリニックを開業するために必要なことは、自分の科目で、何の専門性を持つか、どんなことをするのかということを決めることです。それが決まらなければクリニックの立地や規模、設備を決めることができません。
どの領域が詳しいのかを打ち出さないと、まるで「和食から中華、洋食まで何でもあります」と特徴が書かれているダイニングバーと同じで、競合と差別化することができないのです。まずはクリニックの「ビジョン(展望)、ミッション(使命)、バリュー(価値観)」を決めることからスタートしてみてください。
前述した通りに、これからは超高齢社会に突入するので、たとえばビジョンは「地域で連携して地域医療に貢献する」というのでも良いと思います。
いずれにしても、自分のクリニックはどこを目指して、どんな使命感を持って、どのようなことを提供していくのかを決めていきます。
そのように考えるのが難しいのであれば、どんな診療をしたくないのか、または、患者に何を思われたくないのかということを考えてみることをオススメします。
このうえでさらに、皮膚科だったら美容皮膚科をやるのかやらないのか、内科だったら在宅医療まで取り組むのかなど細かく決めていきます。産婦人科であれば、不妊治療のニーズは都心部で高いのですが、一方で出産であれば新興都市のニーズの方が高かったりします。
クリニックのコンセプト次第で開業費用も大きく変わって来ます。だからこそ、コンセプトはしっかりと決めてください。
このコンセプトを決めるという相談が、私たちへの相談で一番多い項目です。コンセプトは一人ではなかなか決められないものですが、アチーブメントや船井総合研究所といった医療専門のコンサルタントに相談するのも良いでしょう。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長