今回は、高収入の医師だからこそ、若いうちからの資産形成が重要な理由を見ていきます。※医師を取り巻くキャリア環境が激変しています。医局に頼ってきた従来とは異なり、自らキャリアを形成し、開業医を目指す医師が増えているのです。しかし、安易な開業が取り返しのつかない失敗を招く場合もあります。本連載では、開業医を志す医師に向け、開業を成功に導くポイントと、開業を磐石なものにする資産形成の方法を解説します。

医師の可処分所得は、退職すれば一気に減少

これまでの記事で医師の収入や退職金についても解説してきましたが、その金額は必ずしも安泰ではないということが理解できると思います。特に自分が将来、実現したい夢があるとか、いろいろなことにチャレンジしたいと考えていても、必要な資産が足りないということもあります。

 

系列病院で働いていたり、市中病院で働いていたりしても、いつ辞めさせられるのかわからない、という状態になるかもしれません。もし、やむを得ず後から開業医の道を選んだとして、それが50代であれば、ちょうど子どもの教育費用で一番お金が掛かる時と重なってしまいます。いざという時にお金がないという状況にもなりかねません。

 

そこで考えていただきたいのが、後期研修医も含め、早急に資産形成をスタートすることです。なぜなら、20代の場合でも一般企業のサラリーマンに比べ、医師は所得が高く、社会的信用が高い為に、資産形成の方法が広く選べるからです。

 

もう一つ、早めの資産形成をお勧めする理由があります。それは、医師の可処分所得は退職すると一気に減るということです。

 

厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」によると、勤務医の平均年収は定年直前の60歳から64歳までで年収1659万円です。ここから税金や社会保険料を差し引いた可処分所得が額面年収の7割ぐらいと言われています。仮に計算すると1161万3000円です。ところが、年金生活になると年金支給額平均は年間で230万2560円(総務省家計調査年報2017年/夫婦世帯のケース)になります。およそ5分の1にまで可処分所得は減ってしまいます。

 

つまり、定年後は今までのような高い収入を前提とした生活スタイルを大きく変えなければならないというわけです。医師の方は一般的に交際費が高いと言われており、引退後も同じように交際費を使っている場合も少なくありません。医師の友人のなかには資産形成をしていてリタイア後もお金に余裕がある人も多いからです。

 

今まで習慣化されていた生活を大きく変えるというのはなかなかできるものではありません。だからこそ、現状の可処分所得の60%〜70%ぐらいは、給与や役員報酬とは別に確保すべきだと思います。

 

では、どのような形で資産形成をすれば良いのでしょうか。

 

自分の時間を使って収入を得る方法は、忙しい医師には無理でしょう。そこで、お金に働いてもらって収入を得る方法を考えるのです。

 

お金に働いてもらうということは、「時間」を味方につけるということです。

 

ところで、皆さんは「72の法則」をご存知でしょうか。72の法則とは、72を複利の金利で割ると、どのくらいの期間で元手が2倍になるのか、ということを示した法則です。

 

たとえば、今、1万円を持っているとします。その1万円を銀行に預けるとします。たとえば、2018年11月10日現在、都市銀行の普通預金の金利は0.001%です。この金利で預け続ければ、倍にするためには何年掛かるでしょうか?

 

先ほどの「72の法則」を利用して計算すると、72÷0.001=72000で答えは7万2000年後になります。7万2000年後では、自分は確実に死んでしまいますし、自分が働けなくなった時に自分の将来を保証してくれるような資産をつくることは不可能でしょう。預貯金に自分の大切なお金を預けているだけでは、将来のために備えることができないのです。

 

そのため、高利回りの資産運用を取り入れざるを得ないわけですが、必ずリスクが存在します。そのリスクをなるべく減らすために、時間を味方にして、中長期で取り組むことが大切です。中長期の資産運用の代表格が不動産投資です。

 

たとえば、物件価格が2000万円、利回り5%の収益不動産に投資をすれば、元手が倍になるのは20年後です。

 

そして、最も重要なことは銀行の預金では5%の利息は得られませんが、不動産投資であれば5%の収益物件を見つけるのは、そんなに難しくはないということなのです。

早期の資産形成開始で、早期退職&自己実現も可能に

このように時間を味方につけて、投資によって得られた収入源から生み出される利益をさらに再投資することができれば、さらに大きな副収入を得ることができます。そうして自分の資産を着実に増やすことができれば、勤務医でも定年まで働かなくても早期にリタイアすることができ、フリーランスの医師でも将来の不安は少なくなるでしょう。

 

さらに、自分が働かなくても得られる資産を持つことは、世界のどこにいても、何をしていても、たとえ健康でなくとも生活が守られることを意味します。自分の理想の医療を追求するために国境なき医師団に所属したり、発展途上国でボランティアしながら生活したりすることも夢ではありません。

 

たとえば、アフリカの南部ザンビアの僻地医療で1年の半分を現地で過ごしているのが山元香代子医師です。山元先生は、自治医科大学を卒業後、日本三大秘境と言われる宮崎県椎葉村での僻地医療に従事され、地域医療に興味を持たれたそうです。その後、WHOの医務官、JICAの専門家として活動をした時にザンビアの僻地医療の必要性を痛感。2010年にザンビアの医師免許を取得し、毎年、数百万円の私財を投じて、1年のうち半年をザンビアの巡回診療活動に費やし、残りの半年を日本で勤務医として働くという精力的な活動をされています。

 

山元先生のように自分の夢を実現するためにも、資金は必要です。自分で働いて賄うこともできますが、自分が働かなくても得られる不労収入があれば、夢はさらに大きく広がるはずです。

 

 

藤城 健作

ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長

 

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

医局の影響力が弱まった、新研修医制度の施行ーー以降、医師のキャリアを取り巻く環境が激変しています。本書では、勤務医が今後のキャリアを考えるために役立つ情報を提供するとともに、著者の豊富なコンサルティング事例から…

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