製薬会社を通じて副収入を得るのは、もはや不可能
また、以前は製薬会社の接待や講演、原稿料で稼ぐことができた教授の副収入事情も、2014年頃から大きな変化が出てきました。
以前は接待となれば二次会、三次会は当たり前。しかも、接待で行く店はミシュランの星がついた超高級店ばかり。なかにはお城のようなレストランを貸し切って接待を受けた事例も枚挙にいとまがありません。また、医師のなかにはゴルフクラブを製薬会社にねだって購入してもらったというケースがあったり、講演会に行くためにもらったタクシーチケットをそのまま私的に流用する医師もいたりと、製薬会社の接待費用が無限に使われていたこともありました。一人のMRが使った接待費用が半年で500万円を超える、などということも珍しくなかったのです。
ところが、そのような流れに待ったがかかりました。製薬会社でつくる公正取引協議会が接待の規制を2014年から強化することになったのです。これにより、医師とのゴルフやカラオケといった接待には規制がかかるようになりました。
また、医療情報提供のための飲食も一人5000円以下に定められました。規制がかかる前は、一回の会食につき一人あたり最低でも2万円ぐらいを予算としていた製薬会社が多かったため、高級料亭や高級レストランでの接待は当たり前でした。
しかし、飲食費用を一人当たり5000円以下で抑えるということになれば、以前のような接待をすることはできません。ただし、勉強会という名での名ばかりの会議で、決められた飲食費用ギリギリの高額なお弁当の支給などは未だに続いているようです。
一方、日本製薬工業協会もガイドラインを作り、製薬会社に対して、医師や医療機関に支払った講演料や研究開発費、接待費までを開示するよう求めました。その上に各社がさらに自主規制をかけているため、医師からしてみれば実質的に接待を受けられない状態に追い込まれているのです。
製薬会社を通じて医師が副収入を得ることは、もはや不可能になったと言ってもいいでしょう。
「開業」に前向きな医師は半数以上
このような、医局崩壊ともいえる状況のなかで、今後の医師のキャリアは「医局勤務」か「開業」かの二者択一になる時代が来るのではないか、と私は考えています。
医療転職情報のエムスリーが、医局に所属している337人の医師と医局に所属していない163人の医師の合計500人に、今後の自分のキャリアについて聞いたアンケート調査を見てみましょう(2015年)。
まず、将来の開業について聞いてみたところ「開業したい」は56人(11%)、「今は考えていないが選択肢にある」は216人(43%)、「したいと思わない」は228人(46%)という結果になりました。開業について実際に実行したいと考えている人や前向きに考えているという人は54%と、半分以上いるのです。
[図表]医師の開業についてのアンケート調査
それでは、医局に残るか開業するかについて、それぞれの詳しい意見を見てみましょう。「開業したい」という理由としては、以前からあった親の病院を引き継ぐという理由だけでなく、「自分の医師としての収入を増やすため」や「自分のキャリアを伸ばしたい」という意見が相次ぎました。なかには「他の医師と働くことが苦痛」といった人間関係の問題を挙げている人もいます。
「今は考えていないが選択肢にある」という人の中では、開業に踏み切れない理由として、特に金銭面の問題があるという意見がありました。また、教授が変わったら開業を考える、将来、いいポストに就けなければ選択肢の一つとして開業を選択するなどの意見も目立ちました。いざとなったときの選択肢として開業を考えているものの、金銭的な問題がネックになっているようです。
ただし、逆を言えば、開業資金を調達できる金銭的な問題が解決できれば、開業したいという割合はさらに増えると考えられます。
一方、「開業したいと思わない」という人たちの意見としては、「専門分野が開業に不向きである」というそもそも論や「外科医として手術を続けたい」という医局や市中病院などに所属することのメリットを表明するケースが多くありました。また、「勤務医の方が気が楽」「経営能力がない」「定年で辞めたい」と言った意見もありました。
今後は、開業して医師としての資格で収入を大きく増やしていくのか、それとも医局に残るメリットを優先するのか、大きく二極化することが考えられます。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長