ADHDやASDなどの発達障害の子どもを持つお母さんは、子育てに苦労することが少なくありません。将来、彼らが社会に貢献できる人物となるには、周囲のフォローが欠かせません。本記事では、ADHDの子どもを持つお母さんの負担を軽減させるために、周囲の人々ができることについて見ていきます。

「しつけがなっていない」という周囲の冷たい視線

発達障害の子どもを育てるお母さんの苦労は計り知れません。


子どもが電車の中で走りだしてしまえば追いかけたり、図書館で騒ぎだせばなだめたり。
これまでに何回注意しても一向に効果がないのでと、疲れ切ってなすがままにさせておけば、「あのお母さんは子どものしつけがなっていない」と、周囲の冷たい視線にさらされます。


本来なら、逆に社会がお母さんをフォローしてあげるべきです。子どもが電車内で多少走り回っても、温かい目で見守ってくれる社会であれば、お母さんはずいぶん救われるはずです。


近年、発達障害の存在については多くの人に知られるようになりました。発達障害がどのようなものかという知識を持っている人も増えています。しかし、そこから一歩進んで、発達障害の子どもを育てているお母さんの大変さに、思いをはせるべき段階に、私たちは来ているのではないでしょうか。


子育ては、どうしてもお母さん中心になりがちです。世のお父さんはお母さんの大変さを受け止め、フォローすることを欠かさないようにしましょう。


動物園のライオンの雄は、子育てを一切手伝わないのだそうです。しかし、雌ライオンが雄ライオンに八つ当たりをして育児のストレスを解消するから、育児ノイローゼにならないのだとか。

 

 

人間の場合も、父親が母親の子育てに関する悩みを聞いたり、つらさを受け止めたりすることができれば、より円滑に子育てができるでしょう。そのためにも、先述したファミリーダイアログを、家族での子育てに活用してほしいと思います(関連記事『ADHDの子がいる家庭で実践したい「家族会議」の7つのルール』参照)。

 

もともと、人類は群れで子育てをする生き物でした。そのため、母親がひとりで子育てをするのには無理があります。だからといって、急に核家族が大家族に戻れるわけでもありません。


現代の子育ての新しい形として、自治体の子育て支援や、民間の幼児教室を活用するのは良い方法だといえます。血縁はなくとも、信頼関係で結ばれた先生たちと連携しながら子育てができれば、お母さんも楽になりますし、子どもたちも適切な時期に適切な刺激を受けることができ、一石二鳥です。


幼児教室であれば、先生とは毎週決まった時間に顔を合わせます。幼児教室の先生は、幼児教育のプロとして専門知識を持ち、子どもの特性を理解してサポートしてくれる存在です。発達障害の子どもを抱えているお母さんの場合、ママ友とは育児の悩みを共有できない場合もあるでしょう。幼児教室の先生は、ママ友には相談できない子育ての悩みも聞いてもらえる心強い存在でもあります。気がつけば、子どもを介して親戚同士のような存在になっていることもあります。これは「疑似大家族」とでもいえる関係かもしれません。

 

発達障害の子どもを育てていくうえで、社会の理解と寛容さ、そして適切なサポートがあれば、お母さんの心理的な負担はずいぶん軽くなるはずです。発達障害の子どもだけでなく、その子を育てるお母さんのことも温かく見守れる社会でありたいものです。

「発達障害」という言葉のない社会へ

2017年夏、発達障害の青年がヒーローとして活躍する映画が日本でも公開されました。


その映画とは、ハリウッド映画の『パワーレンジャー』。日本でおなじみの5人組ヒーロー「スーパー戦隊シリーズ」をもとに、アメリカでシリーズ化され、大ヒットしてきた作品の映画版です。


その映画の中で、ブルーレンジャーとなるのが、ASDの少年として描かれているビリー・クランストンです。彼は、映画の中で「僕は、自閉症スペクトラムで、脳の構造が普通と違うんだって」という告白をします。ASDの子どもが映画の中でヒーローとして活躍するのは、ハリウッドでは初の試みだといわれています。


ビリーは、ASDによく見られる雰囲気を読めない子どもです。色鉛筆を並べるのが好きというこだわりを示し、自分の好きなことをしゃべり続けてしまい、浮いてしまうこともよくあります。冗談が通じなくて、学校ではいじめられっ子として描かれています。その一方で、記憶力の良さや、パソコンに強いところ、統計・推理力が抜群なところが仲間の役に立ち、活躍します。


ビリー役のRJ・サイラーは、自分自身の役柄について、次のようなコメントをしています。


「ビリーは社会性がなくて友達がいない。でも本当は友達が欲しい。友達が欲しくてもそれをどう言えばいいかわからないし、どう友達を作ればいいかわからない。だけど、今までの彼の人生にはなかった新しいグループに属するチャンスをつかみ、ビリーは彼自身を発見していく。ビリーが知っているのは科学と数式だけ。だからこれは、人を知り、つながりを持つという、彼にとって新しいことなんです。僕はこれは大切なメッセージだと感じています」

 

 

発達障害の子どもたちは、不登校になったり引きこもったりすることで、一瞬自分の身を守れるかもしれません。しかし、長い目で見ると、社会で活躍するチャンスを逃してしまうことになりかねません。

 

発達障害についての理解が進み、発達障害の子どもの特性が一つの個性として受け入れられる世の中なら、社会の中で能力を最大限に発揮して活躍することができるはずです。ビリーは映画の中で、新しいグループに属するチャンスをつかみ、彼自身を発見していきました。同じように、発達障害の子どもたちがROCKETプロジェクトのような場でチャンスを得て、自分自身を発見し、将来、社会に出て活躍できたら、本人にとっても社会にとっても幸せなことです。


発達障害の子どもたちはすばらしい才能を秘めています。その「障害」とされた特性は、来るべきAI時代を生き抜くための武器になるでしょう。発達障害の子どもは、社会の変化に合わせて進化しているのだという見方もできます。


将来、発達障害でよかったね、といわれるようになる日が来るかもしれません。そうなったとき、世の中から「発達障害」という言葉は役目を終え、消えてなくなることでしょう。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役

 

本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

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