ADHDやASDなどの発達障害の子どもたちを持つ家庭は、子育てに苦労することが少なくありません。将来、彼らが社会に貢献できる人物となるには、幼少期から適切な教育をすることが重要になります。本記事では、ADHDの子どもの将来のために、家庭で実践できる教育法について見ていきます。

討論ではなく、答えを見つけ出すための「話し合い」を

発達障害の子どもの教育に役立つメソッドとして、「ファミリーダイアログ」を紹介しましょう。

 

私は日本全国のみならず、海外でも講演を多数行ってきましたが、その際に、「どうやって子どものしつけをしたらよいのか」とよく質問されます。叱っても子どもが言うことをきかないとか、ごほうびをあげることにしても言いつけを守らないなどの相談が多いです。

 

そんなときにおすすめしているのが、これから紹介する「ファミリーダイアログ」です。これは、私がかつて勤務していた日本アイ・ビー・エム株式会社の社内会議のルールを、家庭の中でも使えるようにアレンジしたものです。実際にわが家の子育ての際にも、この方法を使っていました。

 

 

ファミリーダイアログには、次に述べる7つのルールがあります。

 

●話し合いの中では親子は対等の立場

●反対するときには代案を出す

●誰かが話している間は口を開かない

●ノートに記した内容は家族の法律として必ず守る

●話し合いが水掛け論になったらその話は終わり

●誰でも家族全員を招集することができる

●原則として全員参加する

 

たとえば、「電車で走り回らないようにするにはどうしたらいい?」という議題で話し合いをするとします。

 

このときに、親が

 

「電車で走り回るのはダメ。あなたが知らないだけで、そういうルールなのよ」

 

などと、一方的に言ってはいけません。子どもに言い分があれば、それをきちんと聞き、親の考えも一つの意見として話します。誰かが話している途中で遮るのはルール違反です。必ず家族全員が参加するようにし、全員の合意が得られるまで話し合います。

 

そうやって電車の中で走り回らないために、自分にはこんなことができるという意見を出し合います。電車で走り回らないためのルールが、場合によっては「どんなところでも自家用車で行く」という結論になるかもしれません。話し合う前には思いもよらなかった結論に至ったとしても、それがその家族にとってのベストな方法なのです。

 

全員が賛成してはじめて、そのルールは家族の法律となります。全員が納得して決めたルールですから、子どもだけでなく家族全員が必ず守らなければなりません。ルールは一冊のノートに書き記し、全員が承認した証として、サインをします。

 

注意しなければならないのは、これはディベートではないということです。誰かを言い負かすための話し合いではなく、お互いのまだ知らない答えを見つけ出すための話し合いなのです。

 

発達障害の子どもにとっては、コミュニケーションの練習になりますし、社会に出てからも、話し合いの場で役に立ちます。話し合いによって結論が出せるという原体験にもなります。このファミリーダイアログは左脳が発達し始める3歳から始めることができます。

「ファミリーダイアログ」を習慣づけることが大切

子どもが3歳になるまでは、夫婦でファミリーダイアログを行って、習慣をつくっておくとよいでしょう。次に記した手順にしたがって、ぜひご家庭でやってみてください。

 

 

◆ファミリーダイアログのための準備

 

1.みんなが気に入って大切にできるような、素敵なノートを用意する。

 

2.ノートに下記の「ファミリーダイアログのルール」を記入する。

 

【ファミリーダイアログのルール】

●話し合いの中では親子は対等の立場

●反対するときには代案を出す

●誰かが話している間は口を開かない

●ノートに記した内容は家族の法律として必ず守る

●話し合いが水掛け論になったらその話は終わり

●誰でも家族全員を招集することができる

●原則として全員参加する

 

3.記入した「ファミリーダイアログのルール」を家族全員で確認する。確認した証として全員が自筆でサインをする。

 

◆ファミリーダイアログの進め方

 

1.話し合いたいことがある人が、ファミリーダイアログを行いたいという意思を家族全員に伝える。

 

2.開催日時を調整する。

※原則として、全員参加できるよう調整する。どうしても参加できないという場合は、そこで決まったことに異議を唱えず、どんな内容であってもサインしなければならない。

 

3.お互いが納得できる意見が見つかるまで、対話を続ける。話は短く、具体的に簡潔に話すように心がける。

 

4.決定事項をノートに記し、全員がサインする。

※時間内に意見が一致しなかった場合は、次回の日程を決める。

 

ファミリーダイアログは実際にはどのように行われているのか、5歳児がいる家庭のモデルケースを見てみましょう。

 

ある日、朝食をとっているときに、お母さんからファミリーダイアログをやりたいという提案がありました。お母さんが困っていたのは、娘のAちゃんのことでした。最近、何か気に入らないことがあると、家でも公共の場でも大きな声で泣き、駄々をこねるのです。

 

お母さんとしては、すぐにでもファミリーダイアログを開催したいところでしたが、平日はお父さんが仕事で帰りが遅くなるとのことで、次の休日の昼下がりに開催しようということになりました。

 

昼食を済ませ、穏やかな雰囲気の中みんなが席につきました。テーブルの上には、これまでにみんなで決めてきた家のルールが書かれているノートが用意されています。

 

さあ、ファミリーダイアログのスタートです。

 

まずはお母さんが自分の思いを打ち明けます。

 

「最近、お出かけしているときに、お店の中でAちゃんに大きな声で泣かれるので、ママは困っています。周りには、ゆっくり静かにお買い物したい人もたくさんいると思うんだよね」

 

そう言うお母さんに、Aちゃんも自分の考えを主張します。

 

「だって、私がふつうに話しても、ママが全然言うことを聞いてくれないんだもん!」

 

そんなAちゃんの気持ちを汲み取って、お父さんが提案をしました。

 

「Aちゃんは自分のお話を聞いてほしかったんだね。でも、ママだってすべてAちゃんの言うことを聞いてあげられるわけじゃないんだよ。ママの気持ちになって考えてあげたらどうかな?」

 

お母さんが自分のお願いを全部聞いてくれるわけではないということは、Aちゃんもわかっています。でも、「ママの気持ちを考えてあげて」というお父さんの言葉にAちゃんは納得がいきません。

 

「じゃ、ママも私の気持ちになってよ。私だけがママの気持ちを考えるのはおかしいよ」

 

不満気なAちゃんにお父さんが語りかけます。

 

「パパが言う『気持ちを考える』というのは、相手の言いなりになるということじゃないんだよ。相手の気持ちを考えて話し合えば、泣かなくても問題を解決できると思うな」

 

Aちゃんは泣かなくても問題が解決できるということに、はっとした様子です。ただ、まだ腑に落ちない表情をしています。

 

「話し合っても私の言うことを聞いてもらえなかったときはどうしたらいいの?」

 

すると、今度はお母さんが口を開きました。

 

「いつでもどこでも、みんながAちゃんの言うことを聞いてくれるわけではないということはわかるよね?」

 

「うん。でも、ダメって言われると悲しいの」

 

Aちゃんの気持ちを受けて、お母さんが慎重に考えながら話します。

 

「そっか、確かに、自分の言うことを聞いてもらえなくて『ダメ』って言われるのは悲しいね。でも、それって、Aちゃんのことを『ダメ』って言ってるんじゃなくて、ママとAちゃんの考え方が違うっていうことなんじゃないかな?」

 

考え方が違うのではというお母さんの言葉に、Aちゃんは思案します。

 

「考え方が違う……。ママが『ダメ』って言うときに何を考えているかなんて、わかんないよ。ママが『ダメ』って言うだけじゃなくて、ちゃんと説明してくれたらわかるかも」

 

そう言われてみると、私も言葉が足りなかったかもしれないと反省するお母さん。二人の対話を聞いていたお父さんが口を開きました。

 

「それはママにとっても同じなんじゃないかな? Aちゃんが自分の考えを説明せずに泣いてばかりだと、ママにもAちゃんの考えがわからないと思うよ」

 

お父さんの言葉を聞いて、お母さんにアイデアがひらめきました。

 

「それなら、お互いの考えが違うときには、きちんと言葉で説明し合うというのはどう?」

 

お父さんも賛成しました。

 

「いいね。そうすればAちゃんが泣かなくてもAちゃんの考えていることが伝わるし、ママの考えていることもわかるね」

 

でも、Aちゃんはまだ不服そうです。

 

「うーん、だけど、ママの考えがわかっても、私がママの考えがイヤなときにはどうしたらいいの?」

 

食い下がるAちゃん。お父さんも知恵をしぼります。

 

「そうだねぇ。お互いが納得できるように解決策を話し合うのがいいんじゃないかな。Aちゃんはイヤなことがあっても、泣かないで話し合うことはできそう?」

 

「できると思う」

 

「じゃあ、泣いたらその話は聞いてもらえない、というルールでいいかな」

 

「うん、いいよ」

 

Aちゃんは納得しました。ところが、お母さんがまだ思案顔です。「Aちゃんが泣かないでいてくれて、ちゃんと話せたとしても、いつまでたってもお互いが納得できなかったら、どうしたらいいんだろう?」

 

お母さんの問いに、みんなは考え込んでしまいました。やがて、お父さんがアイデアをひねり出します。

 

「そうだなぁ。Aちゃんよりもお母さんの方がいろんなことをよく知っているから、お母さんが『絶対』ダメだと言ったら、あきらめるというのはどうかな?」

 

「えーっ!? そしたら、お母さんがいつも『絶対』ダメって言ったら、私の言うこと何も聞いてもらえなくなっちゃうんじゃない?」

 

確かに、Aちゃんの言うことももっともです。今度はお母さんがアイデアを出します。

 

「それなら、ママは本当にどうしてもダメなときにしか『絶対』という言葉を使わないという約束にしようか」

 

「うーん、それならいいかな」

 

Aちゃんも納得しました。その様子を見て、お父さんが今日の話し合いの結果をノートにまとめ、読み上げます。

 

「人に自分の話を聞いてもらいたいときは、泣かないで自分の気持ちをちゃんと説明する。泣いてしまったら、その話はおしまい。ママが『絶対』という言葉を使ったら、Aちゃんは諦める。ママは本当にどうしてもダメなときにしか『絶対』という言葉を使わない。これでいいかな?」

 

Aちゃんもお母さんもすっきりした顔でうなずきました。そして、お父さん、お母さん、Aちゃんはノートにサインをし、今日決めたルールを守ることを約束しました。

 

これは5歳児とのやりとりをもとにしたモデルケースです。回数を重ねるごとに、幼児でもきちんと話し合いができるようになります。

 

話し合って家庭のルールを自分たちでつくることで、発達障害の子どもが社会に出たときに役立つコミュニケーションのルールを身につけることができます。また、話し合って決めたルールをお互いにきちんと守ることで、子どもに自分をコントロールする能力を教えることもできるのです。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役
 

本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

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