動画の活用など、採用環境も日々変化している
近年では、採用に活用するための「動画」を制作する企業も増えています。このような動向は、かつては見られないことでした。
その背景には、YouTubeに代表されるような無料動画配信サービスの台頭があります。つまり、動画をCMと同じ立ち位置で活用しようという発想なのです。
このように、採用環境も日々変化しているということを認識しておかなければなりません。
ただし、新しい施策である動画作成もまた、採用活動における1つの施策でしかありません。焦って協力会社に依頼する人事担当者もいるかもしれませんが、その前にやるべきことがあるはずです。
「採用媒体への掲載」だけで人が集まる時代は終わった
自社のターゲットや採用基準の明確化、コンセプトの設定および社内への共有をしたうえで、各施策を実行しても遅くはありません。大切なのは、変化する採用環境に対応できる体制を整えておくことです。
特に超高齢化社会を迎える日本の将来を考えた時、従来型の採用フローで同じように戦っていくのは、どう考えても得策ではないでしょう。もはや採用媒体に掲載するだけで人が集まる時代ではないのです。
ある意味において、現代の採用シーンは時代をさかのぼっているのかもしれません。つまり、個々の企業が名指しで選んでもらうための努力をしなければならない時代になっているのです。
Googleが検索データを活かして採用市場に参入しているのは、まさにその流れの一環でしょう。そのような開かれた採用環境において、有利に戦っていくための武器を今から獲得しておく必要があります。
戦力化に時間を要しても、企業が新卒採用を行う理由
採用活動は同志を見つけることと書いてきましたが、改めて、みなさんの会社は、何のために採用を行っているか問います。特に経営者は、採用の目的について再度考える必要があります。全社的な取り組みこそ、採用活動を成功させるために不可欠だからです。
例えば新卒者は戦力化するのに時間がかかります。OJTや研修を通して少しずつ一人前になっていくものです。企業としては、それだけの期間、労力、資金を投じなければなりません。
それでも新卒採用をする理由は何なのでしょう。ある企業の経営者は一気に人材を確保できるので、新卒採用には非常に助かっている、と言いました。しかし人材の数を確保することだけが、それだけの労力をかける新卒採用の目的ではないはずです。
本来、新卒採用とは、企業の目的である自社の理念を達成するための施策に他なりません。自分たちが実現したい理念を達成するために、共感してくれる人を採用し、共に歩んでいく必要があるのです。経営者によっては、中途採用よりも新卒採用のほうが、自社の理念や教育にフィットしやすいとして、中途採用よりも力を入れています。
会社の理念に共感した人なら、ミスマッチが起きにくい
このように企業の理念に共感してくれた人を採用するという発想を根底に有するのが、理念型の採用です。
そのように採用を捉えておけば、やるべきことは「ただ人を集める」ことではなく、「理念に共感してくれる人を集める」ことであると分かります。
この場合、採用フローの組み立てなどは、理念で採用するという視点から行われるべきでしょう。採用フローはそれありきではなく、理念型採用のために必要な施策は何かという考えから導き出されるものでなければならないのです。
会社の理念に共感した人を採用できれば、ミスマッチによって辞めてしまう事態を未然に防ぐことができます。また、深い部分で想いを共有しているからこそ、将来的に成長人材になる可能性もあります。
会社の戦略が変わっても、仕事内容が変わっても、理念が変わることはそうありません。きちんと理念に共感してもらえれば、長きにわたるロイヤリティの形成・維持につながります。だからこそ、理念をいかに届くように伝えていくのかがポイントとなるのです。
伝えるという視点で考えると、特に社長自身が「自分の言葉で語ることができる」というのは必須でしょう。例えば「うちの理念は顧客満足だ」と言うだけでは、他社との違いが分かりません。どこかで聞いたことのある言葉をそのまま述べているだけではダメなのです。
大切なのは、自分たちの理念を自分たちの言葉で語ること。「何のために事業をしているのか」「何のためにある会社なのか」ということを、社長はもちろん社員全員が共有し、語れるようにしておくことが理念採用の第一歩となります。
例えば、アウトドア用品を手がけている「株式会社スノーピーク」という会社があります。もともと金物問屋から始まり、1959年から登山用品の開発に乗り出し2001年には海外展開を開始、2014年には上場を果たしています。アウトドア好きにはファンの多い会社ですが、近年の知名度向上の背景には社内外への理念の浸透がありました。
理念の浸透のために、具体的な活動としては、社長自ら顧客と一緒にキャンプをしています。そればかりか、社長は一年のほとんどをキャンプ生活で過ごしているほどなのです。これは創業以来貫いている「自分たちもユーザーである」という考え方に根ざしています。年間200日を超えてキャンプ生活をしているということ自体が、社内外の理念の浸透に寄与しているのです。
自らが実践しつつ、ファンを大切にする。そのような社長の姿勢は、強力なファン層の醸成につながります。理念採用を実現するには、キラーコンテンツとして、社長もまた重要な役割を担うことになるのです。
深澤 了
ブランディング・ディレクター
クリエイティブ・ディレクター