利用者が満足するサービス提供には「利益」が不可欠
利用者のことを一番に考え、どれほど優れたサービスを提供しようと考えても、それだけでは事業は成り立ちません。たとえば、ある介護サービス会社が、すべての利用者が楽しめて、リハビリ効果の高い体操を開発したとしましょう。しかもすべてのスタッフが専門知識と超一流の接客術を身に付けているとします。
しかし専門知識と超一流の接客術を身に付けたスタッフを維持するには莫大なコストがかかります。高い給料とスタッフへの教育コスト、すばらしい接客には、それに見合うすばらしい設備も必要です。
極端な話だと思うかもしれませんが、実際、事業を継続するにはすばらしいサービスを提供し続けられるだけの「体力」、つまり「利益」が不可欠なのです。この当たり前の原則を無視して事業を行うと、会社は簡単に倒産します。
前述の例をもし本気で実現しようと思うなら、逆にそれだけのサービスを提供しても赤字にならない「利益」を、叩き出せる事業にしなければなりません。
このように事業の本質を考えると、利益は利用者の満足に直結していることが分かります。事業者は、利用者のことを本当に想っているなら、利益をどう確保するのかを同時に考えなければならないのです。
ただし、利益さえ出せばそれが正しいと考えるようになると、その事業者には大きな問題があると思った方が良いでしょう。
なぜなら利用者のために利益は必要ですが、利益を出すためにその事業があるわけではないからです。
より分かりやすく言えば、利益をたくさん出す事業者がいたとしましょう。しかし、それが利用者の満足につながっていなかったとしたら、その事業は社会にとって不要のものといえるのです。
福祉の精神が強い介護業界は「集客力」が欠けている
介護事業は民間参入が認められ、大企業の事業展開や、中小事業者の開業が相次いでいます。競合がひしめくなかで、もはや熱意や想いだけでは、介護事業を存続することは難しくなっています。
現在の状況は、サービスを必要とする利用者数よりもサービスを提供する事業者数が勝っている状態です。
となると必然的に「利用者獲得競争」が起きることになります。介護事業者の中には「競争」なんて嫌だと考える人も少なくありません。元々「福祉」の精神で入った世界なのに、人と張り合うようなことはしたくない、と拒否反応を示される人もいることでしょう。しかし、競争原理が働くようになった以上、競争することが一層の利用者満足につながるのだから、と前向きにとらえる必要があります。
長年介護業界を見てきた私からすると、競争に際して事業者に最も欠けている部分は「集客」のノウハウです。分かりやすく言えば、上手に人を集める営業や宣伝です。利用者の満足度を上げるサービスについては一生懸命頑張るけど、営業や宣伝は苦手という方は多いものです。
たとえば営業でいえば、利用者が増えるか増えないかはケアマネからの紹介を期待する「待ちの姿勢」が基本となっていたりします。もしくは地域のケアマネに営業をかけるくらいで、それ以上の発想がなかなか生まれません。
宣伝にしても同じです。介護業界には今やそうした新しいことにチャレンジする勇気が求められているのです。