どんな事業であっても、顧客満足・収益の視点は重要
事業には「マーケティング」が必須です。介護事業も、もちろん例外ではありません。特に近年は事業を存続させるために「競争に打ち勝つ」ことが欠かせません。
端的にいえば、今後は「マーケティング」で劣る事業者から閉鎖に追い込まれていくことになります。
漠然と考えていては本当に価値のあるサービスは生まれません。市場環境やライバルをリサーチし、顧客の声に耳を傾け、データを分析するなど、論理的、かつ科学的(人文科学や経済学など)に一連の作業を行うことではじめて、他社に打ち勝つ事業となるのです。
どれだけのコストをかけて、利用者にどのような満足をもたらすのか。その結果どのくらいの利益を確保して、中長期的にはどのくらいの利用者数を見込み、どのくらいのスタッフでその事業を続けていくのか──。
こうしたことを論理的に考えていくマーケティングの観点が欠落していると、即座に市場から退場することになるのです。
本来、マーケティングとは公正な競争を促し、顧客満足につながっていくものです。顧客の囲い込みやダンピング、マルチ商法など、いずれも一部の販売側が一方的に大きな利益を得るだけのこうした手法は、断じて「マーケティング」ではありません。
不公正な取引は、消費者や利用者にとって有害であるのはいうまでもありません。
一方で、マーケティングに基づく公正な競争環境は業界の健全な発展を促します。
消費者や利用者のニーズをいかに満たすか、有益な情報をどうやって伝えるかを創意工夫するのがマーケティングです。すべての発想を利用者のより良い満足のためにと考えることが、健全な発展につながるのです。
競争原理が働いた状態では、利用者にどんどん有益なサービスが生みだされます。同じ地域に事業所がABCと3つあれば、利用者は自分にとって最も有益な事業所を選ぶことができるのです。
ただし、選ぶためには価値を見極めるための正しい「情報」が必要です。せっかくすばらしいサービスを提供していても、利用者にそれが伝わっていないとその事業所は選ばれることなく潰れていってしまいます。
また、事業所が少なすぎる環境では、利用者には「選択肢」がありません。自分の住んでいる地域に一つの介護事業所しかなければ、多少サービスに不満があってもそこに通わざるを得ません。
日本マーケティング協会によると、マーケティングは次のように定義されています。
『マーケティングとは、企業および他の組織①がグローバルな視野②に立ち、顧客③との相互理解を得ながら、公正な競争を通して行う市場創造のための総合的活動④である』
①教育・医療・行政などの機関、団体などを含む。
②国内外の社会、文化、自然環境の重視。
③一般消費者、取引先、関係する機関・個人、および地域住民を含む。
④組織の内外に向けて統合・調整されたリサーチ・製品・価格・プロモーション・流通、および顧客・環境関係などに係わる諸活動をいう。
難しい表現ですが、事業活動の広い範囲を「マーケティング」に含めているということです。
私はマーケティングの本質は「人が人に向き合うこと」ととらえています。事業活動は組織の人、利用者、その家族といった、異なる立場の「人」の気持ちに思いを馳せることが最も大事だと考えているからです。
近年新たに登場した「マーケティング4.0」とは?
マーケティングの権威であるフィリップ・コトラー教授は、著書でマーケティングの歴史的な変容を3段階に分ける考え方「マーケティング3.0」を発表しました。
「マーケティング3.0」では、顧客が感じる精神的な価値へのアプローチが主題とされています。SNSなどのデジタル技術により、精神的・情緒的な価値を提案し、世界をよりよい場所にすることが「マーケティング3.0」の主たるテーマです。
[図表1]マーケティング1.0、2.0、3.0の比較
その流れを受けて、近年新たに登場し、集客の現場で登場したのが「マーケティング4.0」です。「マーケティング4.0」は顧客の自己実現に訴えることが最大の特徴といえます。
マーケティングは通常、サービスや商品を提供する事業者の存在を顧客に知ってもらうことから始まりますが、「マーケティング4.0」も同じく、「認知(Aware)」が起点です。その後、顧客に好きになってもらう「訴求(Appeal)」、積極的な調査の上良いものだと確信してもらう「調査(Ask)」、購入や交流といった「行動(Act)」へと誘導します。さらに、最終的には購入者が他者に向けて情報を発信する「推奨(Advocate)」を行うよう促すことで、SNSが普及した社会では爆発的な人気を博することができるのです。
ちなみに、こういった一連の流れを「マーケティング4.0」では、各段階の頭文字から「5Aフレームワーク」と呼びます。
[図表2]マーケティング4.0(5Aフレームワーク)
顧客の気持ちを「知っている」という段階から「推奨したい」へといかに導くか──事業者自身のポジションに即してその課題を考え抜けば、介護事業でも効率的な集客が可能になります。
藤田 直
株式会社インクルージョン代表取締役
株式会社インクルージョン福祉総研代表取締役
福祉のマーケティング・経営塾塾長、社会福祉士・介護支援専門員