倒産した事業所の6割がスタッフ5人以下の小規模事業所
老人福祉・介護事業の倒産が急増しています。2017年の倒産件数は過去最多の111件を記録し、2018年上半期はそれをさらに上回るペースで推移しています。
倒産件数が増えている最も大きな要因は、競争の激化です。高齢者人口が増加しているにもかかわらず、それをはるかに上回るペースで事業所数が増加しているのです。通所介護所(デイ)の事業所数は2001年には9726件だったのが2015年には4万3406件と、約4.5倍も増加しています。
倒産した事業所は、スタッフ5人以下の小規模事業所が6割、また、設立から5年未満が3割を占めています。規模が小さい、設立年数の浅い事業所ほど倒産しやすくなっています(2018年上半期「老人福祉・介護事業」の倒産状況より)。
[図表]老人福祉・介護事業の倒産件数
倒産を後押ししているもう一つの理由は利益率の低下です。厚生労働省が発表している「介護事業経営実態調査結果(2017年度)」によると、2016年度における介護事業の利益率は3.3%でした。前回行われた2014年度調査の7.8%に対し、半分以下に減少しています。
最も減ったのは特別養護老人ホームで8.7%から1.6%にまで下落。デイは4.9%と介護事業の中では比較的高い水準ですが、こちらも前回調査時は11.4%なので、やはり劇的に落ち込んでいます。
原価の大半は人件費…費用の圧縮は困難
介護事業の財源は主に国の介護保険で賄(まかな)われます。国から介護事業者等に対価として支払われる介護給付の総額は制度開始以来増え続け、2000年の当初は3.6兆円だったのが、2016年にはほぼ3倍にあたる10.4兆円にまで膨らみました。
2025年には、この給付額が20兆円を超えると試算されており、政府は増え続ける費用をなんとか抑えようとしています。当然、介護報酬の段階的な切り下げが予想されます。
一方で、介護事業ではコストを切り下げようと思っても、原価の大半を人件費が占めるため切り詰めることは困難です。
確保しなければならないスタッフ数が決まっているため、一定以上の人員削減はできません。それどころか、人手不足で人員確保が優先課題のなか、給与は下げるどころか増やす必要があります。
売り手市場の介護業界では最低でも地域の相場と同じ、あるいはそれより高い報酬を提供しなければ、なかなか人員を確保できません。
異業種からの参入も相次いでいます。
一部上場企業においても、イオングループやローソンなどの流通、パナソニックやソニーなどのメーカー、そのほかにも損保ホールディングスやベネッセ、セコムなど多様な企業が介護事業に参入しています。
イオングループが2020年までに50カ所、パナソニックが2025年までに200カ所の営業を目指しているなど、事業所の拡充を経営方針の一つに掲げている企業が少なくありません。
介護事業はこれまで、国の政策により庇護され、競争原理が働きづらい市場でしたが、異業種からの参入や大手企業の拠点拡充により、年々、厳しさが増しています。
環境が厳しくなれば、弱いものから競争に敗れ、市場を去ることになります。大手ではなく中小、地域に根を下ろした老舗の事業所より起業から間がない新興の事業所といった資本力や集客力で劣る事業所にとって、事業の継続は今後特に難しくなっていくはずです。起業した介護事業者の4割が3年以内に倒産するという統計もあり、介護事業はもはや外食産業並みの激戦区となっているのです。
原価を下げられないなら売上を増やそう。利益率が低いのならば「薄利多売」と、最近では利用者集めに奔走する事業所が増えています。
しかしなんとか利益を確保しようとしても、競合が増え続けている地域で利用者を集めることができず、あえなく敗退してしまうというのが現状最も多いパターンです。
藤田 直
株式会社インクルージョン代表取締役
株式会社インクルージョン福祉総研代表取締役
福祉のマーケティング・経営塾塾長、社会福祉士・介護支援専門員