差別化が難しい領域こそ、共感マーケティングが有益
介護事業は現在、通所介護の事業所だけでも4万件を超えています。
さまざまなレクリエーションや機能回復につながるリハビリテーション、なかにはカジノを模(も)したサービスを提供する事業所まで登場しています。一方で介護事業は介護保険を原資として報酬が支払われており、なんでもかんでもできるわけではありません。
そうしたなか、競争が激しいこの業界では、どこかで新しいサービスや特定のサービスが人気を集めているという情報が流れれば、すぐにほかの事業所でも「ウチでも取り入れよう」となり、サービスによる差別化は難しくなっているのが現状です。
サービスによる差別化が困難だと「うちのサービスはすばらしい」といくら紹介しても、他社に同等のサービスがあるので利用者に違いを訴求できません。
ではどうすれば、他社とは異なる自社の魅力を伝えることができるでしょうか?
その答えとして、私は「共感マーケティング」が最も適していると考えています。「共感マーケティング」とは、接した人の心に共感を醸成することを目的としたマーケティング手法です。
従来のマーケティングは、サービスの違いで自社の優位性を訴えるものでした。たとえば、規模の大きさや最新の設備を導入していること、食事がおいしいことなどを訴求して、「利用したい」と感じさせるのが一般的なマーケティングです。
「共感マーケティング」の成功には次の3つの要素が整うことがポイントになります。
1 実行者に強い「想い」がある
2 その「想い」が利用者のために考え抜かれたものであり、エゴから来るものではない
(つまり、多くの人が共感できる)
3 その「想い」を実行する社員同士が共有できる空気・土壌がある
そのうえで「共感マーケティング」では、価格や設備といったスペックを伝えるのではなく、事業者の人柄や事業にかける「想い」といった情報を「ストーリー」で伝えます。単に情報を並べるのではなく、ストーリーとして伝えるのが「共感マーケティング」の基本です。人の心を動かすにはストーリー(物語)となっていることが重要なのです。
世界中が共感した、スティーブ・ジョブスのストーリー
●車のCM
優れた先進的な性能などを伝えることもありますが、その車を通じて重ねてきた家族との思い出や、親子のコミュニケーションなど、モノではなく「体験」に訴求することでストーリーを感じます。
●芸人で作家の西野亮廣氏
絵本『えんとつ町のプペル』をインターネット上で無料公開するなど、規格外の35万部以上を売り上げ、ビジネス書は全てベストセラー。クラウドファンディングでは総額1億円以上を調達。
主催するオンラインサロンは1万4000人を超える国内最大規模(2018年11月末現在)。
「芸人」の枠を超え、多くの批判や「炎上」を受けながらも成功と失敗を繰り返し、常に果敢に新しいことへ挑戦していく姿に、共感するする人が少なくありません。
賛否のあるストーリーであるからこそ、そこに共感した人は強烈なファンとなります。
●スティーブ・ジョブズ氏
アメリカの「アップル社」ストーリーは有名で、映画化されたほどです。
創業にあたっての想い、製品開発における思想、あくなき挑戦や失敗、そして再起と成功・・・。彼のストーリーに共感した人は世界中に数億人という単位で存在し、彼らはアップル社の新製品だというだけで、今も期待し、登場を待ちわびています。
同様の手法を使う動きは近年、企業がスポンサーとなっているテレビ番組の中で、自社工場を紹介したり、開発秘話を取り上げたりするのはまさに共感マーケティングの一環です。