今回は、マーケティングに役立つ分析手法「PEST」「5F」「3C」等について見ていきます。※人口の高齢化のスピードを上回る速度で増加する介護事業所。過当競争により、小規模事業所の業績悪化や倒産が急増しています。本連載では、今後ますます経営が厳しくなる介護業界において、「共感」を活用したマーケティング手法で稼働率を上げ、経営を維持する方法を紹介します。

大きな枠組みから小さな枠組みへと考える手法

事業を取り巻く環境の分析にはたくさんの種類がありますが、その一部を紹介します。ここでは大きな枠組みから小さな枠組みへと考える「PEST」「5F」「3C」について解説します。

 

●PEST

 

業界を巡る大きな環境、すなわちPolitics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)という4つの要素の頭文字を取ってつくられた言葉です。

 

Politics(政治)

政府や関連団体の動向、税制や規制など法律の改正、消費者保護や公正な競争の推進など政治主導で進む動き

 

Economy(経済)

景気や為替、金利、インフレ・デフレ、貯蓄率や失業率などの経済的動向

 

Society(社会)

ライフスタイルや習俗習慣、世論や価値観、社会規範、宗教、教育レベルなど

 

Technology(技術)

革新的な技術の登場や生産・商品化技術、代替技術の開発など

 

[図表1]PEST

 

業界の環境は、常にそれを囲む大きな環境(マクロ環境)に影響されます。したがって、マクロ環境を分析すれば、さまざまな判断の正確性が高くなります。

 

たとえば、介護業界に進出しようとしている事業者は「介護報酬の増減や規制など高齢者介護を巡る政治の動き」「不動産価格の動向や失業率」「高齢者の介護の負担を自宅から事業所に肩代わりさせることを推奨する世論の動向」「リハビリ用品の技術進歩」などを見極めることで、進出にはどのようなメリットとデメリット、リスクがあるのかを見極められます。世の中の流れを中長期的に予測し、事業の将来性を読み取るヒントになります。一方で、現状の事業では、マクロ環境がどう影響しているかを確認できます。

 

●5F

 

次のような5つの力(5Forces)からその業界の魅力度を計ります。

 

★業界への新規参入の脅威

★顧客にとっての代替製品(サービス)の脅威

★売り手(供給業者)の交渉力

★買い手(顧客)の交渉力

★業界内の競争

 

[図表2]5F(5Forces:5つの力による分析)

 

 

それぞれの力を分析することで、ある程度の業界の魅力度を把握できます。矢印の強さが大きいほどその力は強いといえますが、「いかにして矢印を小さくするか」を考えることで業界の構造を変化させ、自社事業にとって有利に働かせることもできます。たとえば供給業者が大きな力を持っているとしたら、自社で供給の仕組みを持ち、その脅威を小さくするなどが考えられます。

 

介護業界についても、前述のような状況が確認されており、経営は大きな圧力にさらされているといえます。

 

●3C

 

3Cとは市場・顧客(Customer)、競合他社(Competitor)、自社(Company)の頭文字、3つのCからきています。この分析は、主に市場環境を分析し、自社のポジショニングを確認するうえで役立ちます。

 

[図表3]3C分析

「セグメンテーション」「ポジショニング」「4P分析

●セグメンテーション

 

セグメンテーションとは、顧客やニーズによって細分化を行うことです。たとえば、介護事業なら「性別」「家族と同居か独居か」「要介護度」「リハビリ希望の有無」「医療ケアの必要性の有無」などで分類することができます。

 

3C分析の結果に照らしながら、自社にとって最も適切なターゲットが設定できるよう、セグメンテーション(分類)を行う必要があります。

 

セグメンテーションができたら、その中から自社の強みが最も効果を発揮し、競合の特徴が魅力となりにくい層をターゲットに設定します。

 

このようなことから、セグメンテーションとターゲティングは常にセットで行います。

 

なぜなら、分類をしないと正確に狙いを定めることができないからです。

 

●ポジショニング

 

ポジショニングとは選択したターゲットに対して、自社のサービスを特別なものとして位置づけるための活動をいいます。ポジショニングで重要なのは、競合他社に埋もれないよう、独自性の高い価値をターゲットに認めさせることです。

 

ポジショニングを考える際にしばしば使われる「パーセプションマップ」は、顧客の認識を見える化するためのマップで、差別化戦略の立案に役立ちます。

 

顧客が意識しやすく、重要性の高い2軸を設定するのが作成のコツです。

 

●サービスのチェック(4P分析)

 

4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の頭文字を取ったものです。4つのPから自社のサービスを分析することで、他社との違いを把握し、マーケティング活動に役立てていきます。

 

製品(Product)

提供する製品=サービスは非常に重要な要素。介護サービスの場合には建物や設備、そしてスタッフの質がサービスの内容に大きく関わります。

 

価格(Price)

介護事業所の場合、物語ではデイを取り上げているため、価格による差別化は難しいとしましたが、たとえば老人ホームの場合には入居金に大きな違いがあります。ゼロ円という事業所も最近では増えている一方、高級感を売る事業所では数千万円に設定するケースも少なくありません。事業所の種類によっては、価格は非常に大きな訴求要素となります。

 

流通(Place)

同じ金額なら、事業所の立地を郊外にして土地代を安くすれば、その分大きな事業所をつくることができます。逆に都市部なら土地は高いですが、利用者や働き手を集めやすくなります。流通もマーケティングに大きく関わる要素で、ポジショニングに照らして選択することが重要になります。

 

プロモーション(Promotion)

どのように自社をプロモーション(販売促進)していくかも非常に重要です。広告・宣伝を行う際にはそのポジションのニーズを持っている人に伝わるように工夫していく必要があります。

 

[図表4]4P分析

 

 

 

藤田 直

株式会社インクルージョン代表取締役

株式会社インクルージョン福祉総研代表取締役

福祉のマーケティング・経営塾塾長、社会福祉士・介護支援専門員

 

ストーリーで学ぶ 介護事業共感マーケティング

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藤田 直

幻冬舎メディアコンサルティング

介護事業を始めれば、すぐに利用者が集まる時代は終わった――もはや「マーケティング」なしでは生き残れない。 廃業寸前の介護施設「復活ストーリー」から学べ! 高齢化が進む日本介護事業を始めれば、すぐに利用者が集…

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