介護に対する「想い」だけでは事業が立ち行かない現状
介護業界では近年、過当競争による業績悪化が目立ってきています。特に設立間もない事業所や中小規模の事業所が苦境に陥るケースが増えていて、2017年の倒産件数は111件(前年度比7.4%増、東京商工リサーチ調べ)と過去最多を記録しており、今後も増加傾向にあるとみられます。
競争に打ち勝つべく、なんとか独自性の高いサービスをと模索する事業所も少なくありませんが、サービス内容はある程度出尽くしているといえます。たとえばデイサービスであれば、レクリエーション、体操、機能訓練、入浴サポート・・・などは現在では珍しくはありません。
介護事業を立ち上げる人たちの多くは「高齢者を支援したい」という「想い」を持っています。ところがその「想い」を胸に、利用者にとってすばらしいサービスを提供しているだけでは、利用していただくことはもはや困難となってきました。厳しい表現ですが、どんなに良いサービスであったとしても利用してもらわなければ存在しないことと同じです。
さらに大手企業が介護業界に進出していることも経営の難易度を引き上げる要因になっています。ネームバリューのある大企業ほど利用者や働き手を集めやすく、中小規模の事業者にとっては大きな脅威です。このように難しい経営を迫られる介護業界のなかで、中小規模の介護事業者は効果的な打開策を見つけなければ、倒産の道は避けられません。
事業が立ち行かなくなれば大きな被害を受けるのは、そのサービスを必要とする利用者です。支援をしたいという熱い「想い」と生き抜くための「戦略」。福祉事業は、この両輪で在ることが、利用者やスタッフなどの「大切な人」を守っていくことと考えています。
筆者はこれまで福祉業界の現場職員として、経験を積んできました。社会福祉士・介護支援専門員の資格を取り、相談員、介護支援専門員、高齢者入居施設の施設長、生活支援員など、さまざまな立場から業界を見続けてきました。
「共感マーケティング」が人材と利用者を呼ぶ
その経験を活かして、今では介護や障がい児保育などの福祉事業の経営支援業務を請け負い、その数は300件以上あります。また、自身の会社でも福祉事業所の運営をしています。
そんな筆者が今後ますます厳しさを増す福祉業界において、事業を存続させるために必須だと痛感しているのが、「共感マーケティング」と呼ばれる手法です。
「共感マーケティング」が焦点を当てるのは商品やサービスではありません。提供する人や組織の「想い」や、会社の「理念」を訴求することで、共感を得て、商品やサービスの購入に至るのが特徴です。人が人を支援したいという強い「想い」で成り立つこの業界にこそ、「共感マーケティング」がより効果的なのです。
実際にこれまで「共感マーケティング」の導入により、多くの事業所で高い稼働率を実現してきました。
さらに「共感マーケティング」は介護の現場で最も難しい「働き手の質と量の確保」についても改善をもたらします。理念の共有が進むことで意思疎通がしやすくなるうえ、辞めていく人も減り、事業者の考えに「共感」して一緒に働きたいと応募してくれる人が増えるからです。
人は感情で動き、感動は共感を呼びます。
共感をすると誰かに伝えたくなります。
共感には、多くの人を巻き込む力があります。
本連載では、そんな「共感マーケティング」を実践するために必要なポイントを物語(ストーリー)形式と解説で分かりやすく紹介しています。
「マーケティング」という横文字にアレルギーを起こしてもらわないよう、平易な表現を心がけました。
本連載を読めば「共感マーケティング」によって稼働率を上げ、競合ひしめくエリアにおいても安定的に経営ができる方法が分かっていただけることでしょう。
藤田 直
株式会社インクルージョン代表取締役
株式会社インクルージョン福祉総研代表取締役
福祉のマーケティング・経営塾塾長、社会福祉士・介護支援専門員