欧州の状況は2019年も引き続き厳しい様相だ。イタリアの予算案問題はEUとの対立は回避したが、現状の政策では予算通りに税収が伸びない公算が高い。フランスの財政赤字も対GDP比で当初計画より増大する可能性が公表され、EUの定める3%という上限を超えることが懸念されている。英国では離脱合意案の採決が来週に予定されているが、はたして可決できるのか、予断を許さない。このような状況のなか、欧州中央銀行がFRBと同様に金融政策で柔軟な姿勢を示すのか、注目される。

伊の予算案、仏の財政赤字、英のEU離脱…

2018年は欧州にとって、経済状況も政治状況も厳しい一年になった。2019年も、試練は続くと言えるだろう。

 

イタリアは、昨年、2019年の国家予算編成で、財政赤字を国内総生産GDP比2.4%とする予算案を作成してEUと一時厳しく対立したが、最終的には財政赤字目標をGDPの2.04%に抑える案をまとめ、欧州委員会との深刻な対立は回避した。一方で、イタリアの連立政権は貧困層に対する最低所得保障や年金改革など、主要な公約は維持しており、経済成長も厳しい見通しであるため、予算通りに税収が伸びないなどの事態は十分に予想される。今回の予算案策定では、イタリアが大幅に譲歩することで決着したが、先行きは厳しい。

 

フランスも困難な状況に直面している。フランスは、このところ経済成長率の伸びが芳しくなかったことから、昨年末になって2019年の財政赤字が対GDP比で当初計画の2.8%から3.2%へと、増大する可能性があることが公表された。燃料税の導入失敗に加えて、マクロン政府がEUの定める3%の財政赤字上限を超える予算案を提示せざるを得なくなったことは、マクロン仏大統領の人気と権威の失墜ぶりを示しているとの厳しい声もある。2017年の当選時に、66%もあった支持率は23%と半分以下に落ち込んだ*。(*仏調査会社Ifop調査 2018年12月17日)

 

なお、赤字が対GDP比3%を上回ることになっても1回限りなら例外的に容認するなどの声がEU内で出ているが、上述のイタリアの例などを見ると、違和感を覚えることは読者の方も同意されるだろう。

 

そして、来週は、英国議会でEUからの離脱合意案が採決される予定である。メイ内閣は、先月、可決されるかどうか見通しが持てなかったことから、先送りをしたが、3月29日の期限まで、もう時間がない。年末の時点で行われたという与党党員に対する聞き取り調査では、7割近い反対があったという。この2週間で、どれほど状況に変化があったか疑問だが、まず、採決を実施するのか、メイ内閣の判断が注目される。

欧州中央銀行はFRB同様に柔軟な姿勢を見せるのか

欧州中央銀行(ECB)は、次回の政策委員会を1月24日に開催するが、欧州経済の現状をどう見ているか、FRB同様に金融政策で柔軟な姿勢を示すのか、具体的に政策見通しの変更などがありうるのか、注目されよう。ECBも昨年は、経済成長率が軟化するなか、量的緩和からの脱却には市場が考えるよりもタカ派的な姿勢を取ってきた。

 

ECBは昨年12月に量的緩和からの出口戦略として債券購入プログラムを終了する決定をしたが、欧州経済の腰の弱さや世界経済への不透明感を踏まえると、どうにもタイミングがいいとは言えない。年始の市場での動きを踏まえて、最近は、一部委員からも慎重な発言が見られる。こちらも注目しておきたいところである。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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