年末年始に掛けて大荒れとなった市場。4日、米国ではパウエルFRB議長が前回のFOMC会見から180度転換したハト派的な発言を行った。同じ日、中国では李克強中国首相が預金準備率の引き下げを表明。両国共に市場の動揺を早急に抑える動きがあった。一旦下げから反発に転じた相場だが、この先、どれほどの減速感が出るかが注目される。また、同じく4日に発表された米国雇用統計を見ると、雇用市場は相変わらずの力強さが目立った。

市場大荒れ、パウエル議長は「柔軟な姿勢」を表明

経済指標の下振れや企業収益が縮小するとの発表などから、米国・中国ともに経済成長の鈍化が見込まれるとの懸念が台頭し、年末年始に掛けて、市場は大荒れとなった。景気が減速に向かっていることを市場は相当に警戒しており、リスク選好度は極めて低下している状態である。

 

そんななか、先週4日、米国経済学会(AEA)年次総会でパウエル議長は演壇に立った。講演の中で、米国経済への腰折れリスクについて、市場が懸念を強めていることは認識しており、これまでの断続的な利上げ(金融引き締め)姿勢や中央銀行としてのバランスシート縮小プログラムを、変更することも視野に入れて考える柔軟な姿勢であることを発言した。

 

これは、2019年内に2回の利上げ実施を予想し、FRBのバランスシート調整を進める(すなわち量的な緩和からの脱却を粛々と進める)と、強気の経済見通しを維持し、金融政策を引き締める姿勢を維持していた昨年12月19日のFOMC後の記者会見からは、180度の転換ともいうべき「ハト派」的な内容だった。パウエル議長が金融政策には柔軟性があるという含みを公言することで、市場に「ポジティブサプライズ」を与え、経済成長を阻害しかねない資産価格の急落という負の連鎖に歯止めを掛け、大荒れの金融市場の動揺を落ち着かせたことは一定の評価をすべきだろう。

 

また、李克強中国首相は、4日、市中銀行の預金準備率の引き下げや減税や政府の手数料を削減する考えを発表した。中国経済の成長率の低下を受けて、一段の経済対策を取る姿勢を明確にした。 中国人民銀行(中央銀行)は2018年内に、預金準備率を4回にわたって引き下げてきたが、2019年に入って、すぐさま一段の引き下げを実施したことになる。昨年末の習国家主席の演説に沿った内容で、サプライズはないが、中国政府も短期的な景気をダウンサイドリスクを抑えるべく、経済対策へのコミットメントは継続する意向である。

堅調な雇用市場…「利下げ」まで織り込むことへの疑問

さて、一旦相場は下げから反発に転じたが、実際の問題は、米国経済も中国経済も、どれだけ減速感が出るかということになるだろう。懸念と不透明感が占めている市場ではあるが、次はその点を、見極める必要がある。先週のパウエル発言を受けても、2年米国債利回りと5年米国債利回りの逆転現象は変わらず、2年債利回りはやや利回りを上げたものの、年内にもFRBが政策を転換して金利を下げることを多少なりとも織り込んでいる水準にある。

 

パウエルFRB議長の発言からは、年内の利上げ停止の可能性は示唆しており、当面は利上げがないと解釈することには一定の妥当性があるが、利下げまで織り込むのは、やはり懸念が強すぎるのではないだろうか? 米ドル金利は、それほどに低下するだろうか。2018年のように米ドル金利先高観からの米ドル先高観は、維持することは難しいかもしれないが、米ドル金利先安観に与した、米ドル下落を予想することはやや性急ではないだろうか。

 

最後に米国の経済指標を一つ押さえておこう。大荒れの相場の中、あまり注目されていないが、米国労働省が4日に発表した雇用統計(12月)は、非農業部門雇用者数(事業所調査、季節調整済み)が前月比31万2000人増と、雇用者数の伸びが10カ月ぶりに大きく振れた。前月11月も17万6000人増と速報値の15万5000人増から上方修正された。平均時給の伸びも加速し、労働参加率も上昇するという結果となった。もちろん、雇用統計には実体経済に遅れて現れる遅効性があるものとの指摘ももちろんであり、資産価格の下振れの影響などで経済へのダウンサイドリスクは高まっているが、雇用市場の力強さは相変わらずであることも事実である。

 

 

長谷川 建一

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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