今回は、中小企業経営者が経理業務に追われることで生じるデメリットを見ていきます。※中小企業の経営者は、日々膨大な業務をこなしていますが、なかでも経理業務の負担は大きく、経営者が本来行うべき「社長の仕事」を圧迫しているケースが少なくありません。本連載では、経理業務を軽減し、社長本来の仕事に時間を取り戻すメリットを見ていきます。

「売上・利益の追求」こそ、社長が注力すべき仕事

ここで、「社長の仕事」とは何かについて改めて確認しておきましょう。中小企業で経営者がしなければならない仕事、それは端的に言えば「経営」にほかなりません。経営という言葉は多義的であり明確には定義しづらい面がありますが、その目的は会社を永続させるために「将来の売上と利益を増やすこと」にあります。だとすれば目的論的に定義づければ、「将来の売上・利益を増やすために経営者が行うべき一切の仕事」が経営であるといえるでしょう。

 

そして、このように経営をとらえる見地からは、次の①から③のような業務を「経営=社長の仕事」の具体例として挙げることができるはずです。

 

①経営戦略の立案

組織の中長期的な方針や計画となる経営戦略は、経営の羅針盤としての役割を果たすことになります。会社の売上や営業利益を現状からさらに大きく増やしていきたいのであれば、事業計画を立てる、ビジネスモデルの再構築を試みる、新たな商品・サービスを開発するなど経営戦略の立案が強く求められることになります。

 

②マーケティング

マーケティングは、開発した商品・サービスを顧客に購入してもらうために行う活動です。消費者のニーズを確実にとらえるためにはマーケティングリサーチを行うことが不可欠となります。

 

③人脈の構築

ビジネスを拡大していくためには人脈が大切になります。経営者には業界の懇親会に参加するなどの活動を通して、人の輪を広げていく努力が求められることになるでしょう。

とりわけ大きな意義を持つのは「経営戦略の立案」

前述の「社長の仕事」はどれも大切なものばかりですが、その中でも、とりわけ大きな意義を持っているのは「経営戦略の立案」といえます。選択できるビジネスモデルが限られている中小企業が成長し続けるためには、数十年先を見据えた長期的なビジョンを策定することが不可欠となるからです。

 

すなわち、大企業とは異なり、中小企業は薄利多売を本質とする低価格大量生産型のビジネスモデルを採用することはできません。商品を「1円でも安く売る」あるいは「1秒でも早く売る」というやり方では、最終的に資本の大きさの勝負となることが避けられないため、資金力の乏しい中小企業が大企業に太刀打ちすることは困難です。

 

このように、中小企業が大企業と同じように低い利益率を前提としたビジネス戦略を展開しても勝ち目はありません。仮に大企業の利益率が2割だとすれば、中小企業は3割、4割の利益率を上げられる商品・サービスで勝負することが必要になるのです。

 

そのためには、「ほかの競合企業には技術的に作れない」「今までになかった画期的なコンセプトである」「個人個人の顧客の嗜好に合わせてカスタマイズされている」などといった高い付加価値を持った商品・サービスを市場に提供し続けることが不可欠となるでしょう。

 

ことに、人口減少社会を迎えた日本では、今後、国内マーケットが右肩下がりで縮小していくことが予想されています。たとえ、今は売れている商品やサービスであっても、10年後も同様に売れている保証はまったくありません。時代ごとの市場のニーズを把握する努力を常に怠らず、消費者に求められているものを臨機応変に開発し、即時にマーケットに投入する経営戦略が求められることになります。

 

経営者が日々の経理の作業に追われている状況では、そうした長期的な視点から時代の変化をとらえた経営戦略を機敏に立案することは難しくなるはずです。

「社長の仕事」を疎かにした先に待つのは・・・

経営者が「社長の仕事」に取り組めず、企業の成長がストップし足踏みが続いてしまった末に待つ運命は──もしかしたら、〝会社の死〟という最悪の事態かもしれません。読者の皆さんもよく耳にされると思いますが、創業から10年で廃業・倒産する中小企業の割合は9割以上という話もあります。

 

また、大手信用会社の東京商工リサーチが行った2016年「休廃業・解散企業」動向調査によれば、2016年に休廃業・解散した企業数は2万9583件であり、調査を開始した2000年以降の最多記録だった2013年の2万9047件を上回り、過去最多を更新しています。

 

産業別に見ると、飲食業や宿泊業、非営利的団体などを含むサービス業他の7949件(構成比26.9%)が最多となっています。以下、建設業の7527件(同25.4%)、小売業の4196件(同14.2%)、製造業の3017件(同10.2%)と続いており、サービス業他と建設業の2産業で5割が占められています。

 

さらに、右の調査結果をまとめた東京商工リサーチのレポートでは、以下のように、休廃業・解散を迫られる企業が今後さらに増える可能性があることが示唆されています。

 

「政府は2016年6月2日に『日本再興戦略2016』を閣議決定し、2015年度の名目GDP(国内総生産)532兆円を600兆円に引き上げる目標を掲げた。これを受けた形で日本銀行は同年6月30日、金融機関向けに『再チャレンジ支援、事業再生・廃業支援』セミナーを開催した。事業の先行き展望が描けない企業に人材や資産を縛り続けることは地域経済に望ましくないとの認識を示し、事業再生や廃業支援への取り組み強化を促した」

 

後述しますが、現在、政府は、中小企業の成長を促すための施策を次々と打ち出しているところです。他方で、ここに示されているように、「事業の先行き展望が描けない企業=成長性の乏しい企業」が存在し続けることに対しては否定的な姿勢を見せているのです。

 

 

李 日生

社長の時間をつくる株式会社 代表取締役 公認会計士

経営コンサルタント


普川 真如

社長の時間をつくる株式会社 代表取締役 公認会計士

税理士

 

忙しい社長を救う 経理改革の教科書

忙しい社長を救う 経理改革の教科書

李 日生,普川 真如

幻冬舎メディアコンサルティング

公認会計士として大手監査法人に勤め、国内外の多数の大企業の監査業務を担当してきた著者たち。経理・会計の専門家としての立場から中小企業の経営をサポートし続けてきました。こうした経験の中で、中小企業は経理部を社内に…

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