今回は、「経理の仕組み化」がもたらす経営上の利点を見ていきます。※中小企業の経営者は、日々膨大な業務をこなしていますが、なかでも経理業務の負担は大きく、経営者が本来行うべき「社長の仕事」を圧迫しているケースが少なくありません。本連載では、経理業務を軽減し、社長本来の仕事に時間を取り戻すメリットを見ていきます。

「仕組み化」すれば、スタッフに業務を委譲できる

近年の日本政府は、「事業の先行き展望が描けない企業=成長性の乏しい企業」が存在し続けることに対し、否定的な姿勢を見せています。中小企業の経営者たちは、今後、成長のストップした企業はいや応なく廃業へと追い込まれる可能性があることを、覚悟しておかなければならないでしょう。

 

そのような事態を避けたい、つまり〝会社の死〟を免れたいのであれば、「社長の仕事」に必死に取り組み、是が非でも会社を成長させ続けなければなりません。

 

そのためには、「仕組み化」を行って煩わしい日々の日常業務から自由になることが、とりわけ最も負担の重い経理の仕事から解放されることが不可欠となるでしょう。

 

仕組み化とは、「誰が、いつ、どこで、何度やっても同じ成果を出せる」システムを社内に構築することです。言い換えれば、これまでは特定の人しかできなかった属人的な業務を不特定多数の人が行えるようにするわけです。

 

この「仕組み化」の結果、これまで経営者自らが行ってきた経理の仕事を他人に行わせることが可能となります。つまりは、毎日繰り返してきた現金・預金の管理や伝票の作成、帳簿の記載もすべてほかの人に任せられるようになるのです。

 

最小限の時間と労力で企業の生産性を最大限に上げる手法として、大企業では「仕組み化」が当然のように導入されています。

 

しかし、中小企業では、そもそも「仕組み化」という概念があることさえ知らない経営者が少なくありません。例えば、私たちの顧問先の経営者で、日ごろから「時間が足りない」と訴えている人たちは、皆一様に自分の分身が欲しいと言います。

 

「もう一人自分がいれば、経営の仕事をやってほしい。そうすれば飛躍的に売上を伸ばすことができるだろう」──という思いからなのでしょうが、それを実現するのがまさに「仕組み化」なのです。

300時間を経営に充て、「売上の壁」を壊す!

「仕組み化」は、要は「今まで自分一人で行ってきたことを人に委ねる」ということであり、その中身自体は非常にシンプルともいえます。しかし、その効果は絶大です。

 

俗に「3億円の壁」「10億円の壁」などといわれるように、中小企業がどうしても越えられない売上の壁がいくつか存在します。多くの経営者がそうした壁の前で足踏みをしたまま、「どうすれば乗り越えられるのだ・・・」と悩み続けています。

 

しかし、仕組み化を行うことによって「社長の時間」をつくることができれば、心おきなく「社長の仕事」に取り組めるようになります。今まで経理に費やされていた300時間を使って、じっくりと中長期的な視点を持って経営戦略を策定し、実行することも可能となるのです。

 

そうなれば、今まで立ちはだかってきた〝成長の壁〟を乗り越えることも決して夢ではなくなるはずです。

成長力のある中小企業を後押しする「事業性評価融資」

しかも、先に触れたように、現在、国は成長力のある中小企業を後押しする政策を次々と打ち出しているところです。

 

一例を挙げると、金融行政のかじ取り役である金融庁は、目下、金融機関に対して成長の可能性がある企業に対して無担保、無保証で融資すること、いわゆる「事業性評価融資」を強く促しています。

 

この「事業性評価融資」は、2014年(平成26年)9月に同庁が公表した「平成26事務年度 金融モニタリング基本方針」に基づいてスタートしたものです。同方針では、金融機関に対して「財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し(『事業性評価』)、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援していくこと」が求められています。

 

このような金融庁の要請を受け、都市銀行や信用金庫などは、成長力のある企業に対して好条件で積極的に貸し出すスタンスを強めているところなのです。

 

また、厚生労働省も地域の金融機関と連携し、成長企業の支援に着手しています。具体的には、金融機関によって成長力があると認められた企業に対して、労働関係の助成金を優遇する施策を開始しました。2017年1月26日付の日本経済新聞では、この助成金の詳細について以下のように伝えています。

 

「まず不振企業から成長企業への労働移動を促す『受け入れ人材育成支援奨励金』で今回の取り組みを始める。同助成金では経営不振などで解雇された労働者を無期雇用の従業員として雇った企業に一人当たり30万円を支給する。受け入れる側の企業の生産性が3年で6%以上伸びているなどの要件を満たせば助成額を80万円に増やしている。

今回の取り組みでは、生産性が6%以上伸びていなくても、都道府県の労働局から相談を受けた金融機関が『成長の見込みがある』と助言すれば、助成額を80万円に増やす。最終的には助言を受けた労働局側が、優遇するかどうかを判断する」

 

「仕組み化」によって成長力を得た企業は、国からこれらの特別な融資と助成金を獲得してさらに大きくなっていくチャンスを得る一方、「仕組み化」を行わず成長しないままの企業は市場からの退出を迫られる──このように、経理に充てていた300時間を使って、「社長の仕事」を行うことができるかどうかが、自社存亡の大きなカギとなる時代を迎えているのです。

「仕組み化」は深刻な人手不足の解決策にも

ちなみに、「仕組み化」は目下、中小企業の経営者たちを悩ませている人手不足の問題を解決するうえでも大きな効果を発揮するはずです。

 

厚生労働省が2017年3月に発表した同年1月の求人倍率は1.43倍で、バブル経済だった1991年7月以来の高水準となりました。また、帝国データバンクが同年2月に発表した人手不足に対する企業の動向調査によれば、現在の正社員の過不足状況に関する質問に対して、43.9%の企業が「不足している」と答えており、過去10年間で最高になっています。

 

このように中小企業が人を採用しづらい状況のなかで、いくら募集しても全く応募がない中小企業も珍しくありません。

 

また、運良く採用できたとしても、「入った社員が1年も経たないうちに辞めてしまった…」というケースも多く見られます。

 

今の若い人たちの間では、「石の上にも三年」などという言葉はとっくに死語になっており、会社に対して少しでも不満があれば我慢せずにすぐに転職してしまいます。私たちのクライアントの中にも、経理のスタッフが入社してもすぐに辞めてしまい、3カ月ごとにくるくると変わっているようなところがあります。

 

募集媒体やエージェントを使うなど、人を雇うのにも相応のコストがかかります。社員が定着しないまま退職・採用を繰り返していけば、大切な経営資源はどんどん失われていくばかりです。また、採用に費やされる時間や手間も馬鹿になりません。

 

このような人手不足の状況が、今後も改善される見込みの乏しいなかで、中小企業の経営者には、少ない人数で社内の業務を回していく工夫をすることも求められています。人を効率的に動かすことを目的とした「仕組み化」は、そのための有効な選択肢の一つになり得るでしょう。

 

 

李 日生

社長の時間をつくる株式会社 代表取締役 公認会計士

経営コンサルタント

 

普川 真如

社長の時間をつくる株式会社 代表取締役 公認会計士

税理士

 

忙しい社長を救う 経理改革の教科書

忙しい社長を救う 経理改革の教科書

李 日生,普川 真如

幻冬舎メディアコンサルティング

公認会計士として大手監査法人に勤め、国内外の多数の大企業の監査業務を担当してきた著者たち。経理・会計の専門家としての立場から中小企業の経営をサポートし続けてきました。こうした経験の中で、中小企業は経理部を社内に…

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