「社長経理」では、お金のムダやミスが生じがち
多くの中小企業では、日々発生する経理業務のために、経営者が多大な時間と労力を割かなければならない状況に陥っています。
私たちが独自に集計したアンケートでは、経営者が経理処理などの作業に費やす時間は1日1時間弱、月間で25時間、年間でおよそ300時間にのぼるという結果が得られています。日数にすれば、1年のうち実に約13日間が丸々経理の仕事だけに使われている計算になります。
社長がこれほど多くの時間を経理作業に費やしているために、いったいどれだけの損失が自社にもたらされていることか! 試しに、パートに経理作業を行わせた場合の時給と社長自身が経理の仕事を行っている場合の時給を比較しながら検討してみましょう。
まず、経理事務のために、仮に1000円の時給でパートを雇ったとすれば、「300時間×1000円」の計算式から年間で30万円の報酬を支払うことになります。
一方、社長の時給を仮に1万円とすれば、年間300時間働いた場合には、300万円になります。つまり、社長が経理作業を行っていることに対して会社は300万円を支払っていることになるわけです。
本来、パートに行わせていれば30万円ですむはずの仕事に300万円を支払っているのですから、実質的には270万円をムダに捨てているのと変わりありません。
もちろん「会社の売上から考えると、自分の時給は1万円どころではない。2万円、いや3万円以上にはなるはず」と言う人もいるでしょう。もしそうだとすれば、ムダにしているお金の額は、さらに大きくなるはずです。
また、経理業務を経営者が行うことには、もう一つ別の大きな〝落とし穴〟があります。時間的な余裕がないなかで経理作業を日々続けていれば当然間違いが発生することもあるでしょう。しかも、経理を担当しているのが経営者だけであれば、第三者の目が入らないままミスが繰り返される恐れがあります。
そうした過ちが積もり積もった結果、大きなトラブルへと発展することもあり得ます。例えば、税務署が「おや、なぜこの売上でこれだけの利益しかないのだろう?」などと、経理ミスによって生まれた不自然な数字を怪しめば税務調査に入られることになるかもしれません。その結果、多額の重加算税が課され、さらには青色申告が取り消されて、銀行からも借り入れができなくなる・・・もしかしたら、そんな思いもよらない事態に一気に追い込まれることになるかもしれないのです。
ことにインターネット取引等の発展・普及に伴い、経済活動の多様化・スピード化が進んでいる結果、経理を行ううえで理解しておくべき知識やノウハウは、年々、複雑化の度合いを高めています。実際、ひと昔前には、経営者の配偶者が算盤(そろばん)や電卓を片手に帳簿をつけている光景をあちらこちらの中小零細企業で目にしましたが、今ではあまり見かけなくなっています。経理の入門書の類いを読んで学んだ程度の付け焼き刃の知識では、帳簿をまとめることが難しくなってしまったためです。
このように経理・会計の仕組みが年々複雑化していることもあって、経理ミスを犯す危険性は以前に比べて格段に高まっているといえるでしょう。にもかかわらず、経営者が一人で経理業務を続けることは経営に対するリスクが大きく、決して好ましいことではないといえるのです。
中小企業の業績は社長のパフォーマンスが左右する
このように「社長の時給」という観点から考えてみても、またリスク管理の面から見ても、経営者自ら経理作業を行っていることが企業経営にとって大きなマイナス要因となっていることは明らかです。
さらにより大きな問題は、経理の仕事に日々追われているために、企業の経営者として本来果たすべき「社長の仕事」を満足に行うことができなくなってしまっていることです。
大企業と違い、中小企業の業績は、社長のパフォーマンスに大きく左右されます。社員全員の総合的な力あるいは組織全体の力で伸びていくというよりは、経営者がいわば会社の「エンジン」となって奮闘することによって企業は成長していくことになるわけです。しかし、経営者が経理の仕事ばかりにかまけていれば、「社長の仕事」はおろそかになるでしょう。その結果、会社のエンジンが十分にかからなくなってしまう恐れがあるのです。
李 日生
社長の時間をつくる株式会社 代表取締役 公認会計士
経営コンサルタント
普川 真如
社長の時間をつくる株式会社 代表取締役 公認会計士
税理士