自由度の高い金融市場で知られる香港。相続税は無く、法人税率なども低いことから、日本の富裕層に利用されることも多いですが、OECD主導による共通報告基準(CRS)が実施された現在、問題はないのでしょうか。本記事では、実際にあった失敗事例を参考に香港・オフショアを活用した資産管理の注意点を見ていきます。※本連載は、小峰孝史が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

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香港で稼いだ収益を現地に置いたまま、日本に帰国…

香港はアジアを代表する金融センターであり、様々な金融商品が購入可能なだけでなく、税率が低い(相続税無し、法人税16.5%、個人所得税17%)ため、多くの方々がそのメリットを享受する目的で、香港やオフショアで資産管理をしています。

 

しかし、やり方によっては問題になることもあります。とくに複雑なアレンジをした本人が亡くなり、残された遺族がそれについて何も知らされていなかった場合、複雑なアレンジを目の前にして困惑してしまうこともあります。

 

今回は、弊社で過去に扱った問題ある事例をベースに、海外での資産管理で起こりうる問題をご紹介します。

注:事例は元の案件を特定できないよう、弊社編集部で修正を加えたものです。

 

 事例1  香港在住者が日本に帰国した際、香港に残した資産

 

香港に数年間居住・会社経営をしていたAさんは、香港での会社経営であげた収益を香港のプライベートバンクで資産管理していました。今回、香港法人の代表を降り、日本に引越することになりました。

 

日本に帰国するにあたり、Aさんは、資産を置いている香港のプライベートバンクの担当者に連絡しました。

 

Aさん:今度、日本に帰国します。

 

PB担当者:ご家族も一緒ですか?

 

Aさん:家族も一緒に日本に帰ります。私は、1ヵ月に1回くらいは香港に来るので、香港の家は借り続けます。日本に帰国した後も香港のプライベートバンクに資産を置いていると、税金上の手続も大変そうなので、財産は日本に持って帰ろうと思います。

 

PB担当者:Aさんは、香港で家を借り続けるのですから、「香港の居住者=日本の非居住者」です。このまま弊行に財産を置いていても、日本では何の手続も必要ありません。

 

Aさん:そうなんですか。そうであれば、資産は御行に置いておきますね。

 

―――――― それから約1年後 ――――――

 

Aさん:日本で別荘を買うので、日本の銀行に1億円送金してくれませんか?

 

PB担当者:ちょっと、今、それはまずいですね・・・。

 

 OWLの解説 

 

国外財産調書は、日本居住者の方で、その年の12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する方が、翌年の3月15日までに所轄税務署長に提出しなければいけない書面です。

 

ここで問題になるのは、どのような基準で「日本居住者」か「日本非居住者」かを区別するかです。

 

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所得税法における「居住者」とは、日本国内に「住所」があるか、または現在まで引き続いて1年以上「居所」がある個人をいいますが、この「住所」とは、「各人の生活の本拠」をいい、国内に「生活の本拠」があるかどうかは、客観的事実によって判断することになっています。

 

本件のAさんのように、滞在先が複数の国にある場合、その住所がどこにあるかを判定するためには、例えば、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍等の客観的事実によって判断することになります。

 

このAさんの場合、住居は日本・香港の両方にあるとしても、役員として仕事をしている勤務先が日本にあること、扶養家族が日本にいることなど、そもそも日本に滞在している日数の方が圧倒的に長いことなどを考慮すると、日本に住所があり、日本居住者だったと言うべきでしょう。

 

そうすると、国外財産調書を提出する義務があったと思われます。

 

国外財産調書を提出していない国外財産は、その後に税務調査があった場合など、税務署に説明できない財産、つまり、持っているのに使えない財産になってしまいます。

 

プライベートバンクの担当者は、「日本の銀行への送金⇒別荘購入」がきっかけになって、国外財産調書不提出を税務署から問題視されることを恐れて、日本の銀行への送金をまずいと言ったのかも知れません。

 

財産は使えてこそ意味があります。外国に隠しておくだけでは資産の意味が半減してしまうのではないでしょうか。

秘匿性を高めても、資産が使えなければ意味がない

 事例2  オフショア法人同士が株式を持ち合う複雑なストラクチャー

 

日本で事業をしつつオフショア法人に資産を隠していた方が亡くなられ、その遺族と顧問税理士の方から相談を受けたことがありました。

 

香港には、オフショア法人の設立サポート会社が多いですが、亡くなられたお父様が、そうした会社と相談して、オフショア法人Aを設立、法人Aが100%株主となって法人Bを設立、その後、オフショア法人Bがオフショア法人Aになることで、一見すると、誰が最終的なオーナーか分からないようになっていました。

 

 OWLの解説 

 

オフショア法人はもともと株主や取締役などの情報が開示されず、秘匿性が高いのですが、オフショア法人を連ねることで、より秘匿性の高い仕組みになっていました。

 

しかし、OECD主導による共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)に基づく自動的情報交換制度が開始することで、隠すだけの仕組みでは機能しなくなります。

 

このお父様が亡くなられ弊社が連絡を頂いたのは、自動的情報交換制度がスタートする少し前の時点だったのですが、この複雑なストラクチャーを整理し、複雑化させることで隠すというやり方を止めるよう、提案しました。

 

香港・オフショアなど海外を活用して資産管理をすることには、たくさんのメリットがあります。しかし、香港法人・オフショア法人を使って分かりにくくして、見つからないようにする、というだけでは、そこに隠した財産は使いにくいものとなってしまいます。財産は使えるように管理してこそ生きるのです。

 

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