自由度の高い金融市場で知られる香港ですが、仮想通貨はどのように取引されているのでしょうか。本連載では、香港における仮想通貨の取引の現状や規制を解説するとともに、香港の現地情報についてもご紹介します。今回は、スタートアップ企業が香港を拠点にするメリットを見ていきます。※本連載は、小峰孝史が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

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「お金に直結しやすい職業」に就きたがる香港人

金融業が注目されがちな香港のビジネスですが、香港はその弱点として、IT産業との接点のなさや、起業家精神(アントレナーシップ)のなさを指摘をされることがあります。では実際のところ、香港とアントレプレナーとは相性が悪いのでしょうか? 裏付け調査をすべく、OWL編集部はスタートアップ関係のイベントへと足を向けました。

 

参加したのは、「Oxbridge/KPMG Speaker Series」です。「Oxbridge」とは、「Oxford(オックスフォード)」と「Cambridge(ケンブリッジ)」を合わせた言葉です。「早稲田」と「慶應」を合わせた「早慶」と似ています。香港は1997年の中国復帰まで英国植民地だったという歴史的経緯もあり、Oxbridge出身者が多く、Oxbridge関連のイベントがよく開かれています。

 

今回は、弊社マネージングディレクターの小峰がオックスフォード大学大学院出身ということで連絡を受け、参加することができました。

 

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[写真1]「Oxbridge/KPMG Speaker Series」の会場内の様子

 

このイベント前半の第1部では、Alibaba Entrepreneurs FundのExecutive Directorである、Ms. Cindy Chow、Head of New Economy and Life Science KPMG Hong KongであるMs. Irene Chuから、香港のスタートアップに関する共同研究結果についてのスピーチがありました。

 

資本へのアクセスや、生産拠点である中国に近いといった地理的有利性が、香港の強みとして示されました。一方、香港の弱みとしては、アントレプレナーシップが欠けている点のほか、家族・友人からのスタートアップへの不理解が挙がりました。

 

一般的に「商売熱心で機敏に動く」といわれる香港人と、アントレプレナーシップの欠如とは結びつきにくいかもしれません。しかし、「商売熱心で機敏だが、アントレプレナーシップは弱い」という印象は、香港を拠点に業務を展開するわれわれの実感とも合致します。ひとつの例として、あるアントレプレナーのイベントに参加したときの体験をご紹介しましょう。

 

そのイベントでは、多くの起業家が新事業のプレゼンをしていたのですが、欧米人が多く、中国人や香港人のような容貌の人でも、多くは欧米生まれ(例えば、英国生まれの中国人のことは、British Born Chinese、略して英国国営放送と同じく「BBC」)だったり、子どものころから十数年米国に住んでいるなど、アジア人でありながら考え方や価値観はアメリカ人寄りだったりします。そのような彼らのことを、「香港人のアントレプレナー」とは言いにくいのです。

 

プレゼン後、軽食を食べながら自由に話し合える時間があったのですが、香港的な英語で話しかけられ、「やっと生粋の香港人に出会った!」と感激したところ、起業家向けに不動産を売り込む現地の不動産業者だった・・・という、笑い話のような出来事もありました。

 

ちなみに、香港人が就きたがる職業は、お金に直結しやすい医者、弁護士、金融関係、不動産といわれています。

 

[写真2]参加者同士が自由に話せる時間が設けられている

 

このように、スタートアップとの親和性が低いと言われる香港ですが、その背景に何があるのか、スタートアップ起業家が香港をどう使っていくべきか、後半第2部のパネルディスカッションの中で、いろいろと見えてくるものがありました。

優秀な人材は、金融分野に進むケースが多いが・・・

この第2部には、第1部に登壇した2人のほか、スタートアップ企業のCEO2人加わりました。企業やメンバー内で用いることのできる、SNSのようなソフトウェアサービスを提供するJuven LimitedのCEO、Mr Edmond Chan、眼の中に注射器を使わずに薬を注入できる新技術のハードウェアを開発中のOpharmic Technology (HK) LimitedのMr Langston Suenです。

 

この中で特に話題になったのは、香港の人材不足でした。Juven社は、香港でソフトエンジニアを募集したものの、良い人材を採用できず、海外で探さざるを得なかったと語りました。また、Opharmic社では、香港からの応募よりも、事業内容に興味を持った海外の人の応募が多いといいます。

 

[写真3]参加企業の1つ、Opharmic社によるスピーチの様子

 

これらの背景として、香港の大学に優秀な人材がいても、投資銀行などの金融分野に進む人が多く、スタートアップにはなかなか来ないといった事情があるようです。

 

やはり、先に挙げた「香港人が就きたい職業」からもわかるように、確実にお金を稼げる職業への志向が理由のようです。

地理的にはスタートアップに有利な条件が揃う香港

香港はスタートアップに不向きという内容ばかり挙げてきたので、香港はスタートアップ企業にとってあまり意味のない場所だと思われてしまったかもしれません。

 

しかしそれは誤解であり、もちろんそのようなことはありません。まず、香港は金融の拠点であるため、資金調達に向いています。そして、電車で1時間もかからない隣町の深センには、金属加工・プラスチック加工など旧来的な製造業から、半導体・モバイル・ドローンに至るまで、ありとあらゆる製造業の集積があります。

 

そのため、この深セン・香港を含めた珠江デルタ地域の一体化がより深まれば、この地域はスタートアップにとって非常に有益な場所になると考えられます。

 

事実、香港の強み・深センの強みを組み合わせるだけでなく、さらに巨大市場の中国の隣という強みも組み合わせることで、スタートアップにとっても今よりさらに使いやすく、メリットの大きい地域になると言えそうです。

 

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