2019年以降も利上げは断続的に実施へ
米連邦公開市場委員会(FOMC)は、今週19日、0.25%の利上げ実施を発表した。今年4回目の利上げ実施であり、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標のレンジは2.25-2.50%に引き上げられた。
FOMC後の声明では、米国経済は引き続き力強いペースで拡大し、労働市場も一段と引き締まっていることが指摘された。特に、雇用の伸びはこの数カ月ならしてみると力強く、失業率は歴史的にも低い水準が続いている。家計支出も力強い伸びが続いたとしている。
一方で、企業の設備投資の伸びが今年初のような急速な拡大ペースからは緩やかになったとも指摘された。そして、もう一つ重要な点であるインフレ率に関してであるが、全般的には2%付近にとどまっており、中長期的なインフレ期待の指標は、ならしてみるとほとんど変わっていないという。
市場は、FRBが来年の金融政策に関して、どのような方向感を打ち出すかを注目していた。9月と11月のFOMC声明文に変化をかぎ取っていた市場参加者は、今回のFOMC後には、11月のFOMC声明文よりもさらに踏み込んだ、利上げに対してより慎重なトーンを期待していたといってもよいだろう。
しかしFOMCが2019年も利上げは断続的に、数度実施される可能性を示唆したことは、米国経済のピークアウトへの懸念を強めた。また、金融状況の逼迫や貿易摩擦などによる海外発のリスク、米国内の金利動向に敏感なセクターの減速兆候などへの、より明確な配慮がなかったことで、肩透かしを喰らった感もあろう。
債券市場では、景気減速への警戒感から、長期金利の急激な低下が起こった。米国債10年物は、一時2.75%と、この6か月ほどでは最低の水準に低下した。利回り曲線は、ほぼ平坦化したといえるだろう。
株式市場は、FRBのやや冷たいともいえる態度に神経質に反応した。加えて、米上院が可決したつなぎ予算に国境の壁を建設する予算が含まれていないことに反発したトランプ大統領が、これに署名しない態度を示したことで、米国政府の閉鎖の危機が高まったことを嫌気して、株式市場では売りが強まった。下値のめどのひとつと思われていた今年2月の安値をダウ・S&P500・ナスダックとも下回ってきており、下値不安が強まっている。なお、現行のつなぎ予算は12月21日が期限であり、議会共和党とトランプ大統領の協議はぎりぎりまで続くだろう。
為替市場も、米ドル長期金利の低下を受けて、米ドル売りが強まった。ドル円は一時110円台まで下げ、反対にユーロにとっては支援材料となった。
FOMCによる利上げ実施以降の市場の反応に対しては、ムニューシン財務長官はインタビューで「完全に度が過ぎている」と述べた。経済指標の動向からすると、筆者も、米国経済の本格的な腰折れを見込むことは難しいのではないかと考えている。ピークアウト懸念が先走る形で、米ドル長期金利や株価を押し下げているが、やや拙速感を抱いている。
一方で、市場では、断続的に引き締められてきた金融政策の変更への期待が根強いことは確かである。今回のFOMC声明などからのFRBのスタンスの印象と、先月の「政策金利が中立金利に近い水準にある」とのパウエル議長発言との整合性が取れないと感じた市場とのギャップは、今年一年かみ合わなかったギャップを象徴しているのかもしれない。
イールドカーブの逆イールド化は要注意
前稿でも、書いた通り、今月の初めには、米国債券市場で2年債と5年債の利回り差がなくなり、2年債と5年債の間で長短金利が一時逆転する「逆イールド」現象が生じた。本格的に「逆イールドカーブ」となってきた場合、市場における米国経済のピークアウト・成長鈍化のシナリオは、市場のトレンドを決定づけるだろう。過去の景気後退局面では、逆イールド現象発生後、約1年ほどを経ると、米国経済の成長鈍化→リセッション入りが確認されている。市場では、米国経済のリセッション入りを懸念する声が強まってきている。米国債のイールドカーブの変化は、株式市場にも、為替市場にも大きく影響する。注目を払っておきたい。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO