因果関係だけを重視した捉え方では「手詰まり」に!?
注意してほしいのはロジックの力を軽視しているわけではないということです。この連載でいくつか例示しますが、ロジックはしっかり使えば非常に強力なツールになります。因果関係で示される世界は美しく、意思決定の拠り所になり得ます。
しかし、特に成熟化して久しい日本のような市場では、ロジック一辺倒で打開できない状況が非常に多くなっています。因果関係だけを重視した捉え方だけでは手詰まりの状況が非常に多くなっているのです。
数字でビジネス全体を把握することは不可能
ビジネスにおけるロジックの世界は、因果関係が明確で最終的に数字に置き換えられる世界です。数字は客観的で確度が高く、人間が発明した最高のロジックツールでしょう。とにかく「分かりやすい」し、「分かった気にさせる」ものです。企業活動の結果は、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書など客観的な数値として表現されます。
ところが、企業活動の全てがこうした基本財務諸表上に表現できるわけではなく、むしろ数字として表現できない無数の活動が行われています。目に見える活動でも数字に落とし込めないものは数多くありますし、目に見えない「思考」などは全く表現の対象外になります。
例えば、商品を販売している企業の月末在庫は商品在庫として貸借対照表に計上されます。ところが「警備」というサービスを販売している会社は、サービスの供給の源泉である「警備員」を月末の貸借対照表上に計上できません。なぜなら「警備員の資産価値」を合理的に測定(金額換算)できないからです。
また、その「警備員」が就業時間中に思考したこと、例えば「お客様が警報スイッチを押してから駆けつけても間に合わないな」と思っても、その思考の経済的価値を何ら金額換算できないため、会計的な手当などできず数字に落とし込むことができません。
このように、数字でビジネス全体を語るには限界があるどころか、そもそも数字でビジネス全体を把握することなど不可能なのです。
しかし、数字を日常的に扱う公認会計士や税理士、及び金融機関を含め、ビジネスマンの多くが「数字こそ全て」という錯覚に陥っているのではないでしょうか。
中小企業の事業再生の現場でも同じことが言えます。税務の専門家である税理士はそもそもロジックを学んでいませんし、ロジックにある程度慣れている公認会計士も、多くの場合ロジックの世界だけで問題解決を図ろうとしています。
自らの専門である財務会計や管理会計の世界だけで問題解決を図ろうとする狭い視野では、複雑なビジネス全体のリデザインを進める事業再生など、まずできるわけがないのです。
今後のビジネスは「デザイン」が大きな影響を与える!?
5年ほど前から、ロジックの典型とも言うべき戦略コンサルティングファームによるデザイン会社の買収が多くなっています。
例えば、2013年8月にアクセンチュアがロンドンに本社のあるデザインファーム「Fjord」を買収しましたし、マッキンゼーは2015年5月にデザインファーム「LUNAR」を買収しました。
また、戦略コンサルティングファームではありませんが、アメリカの金融大手のキャピタルワンが2014年10月にUX(User experience:ユーザーエクスペリエンス)デザインコンサルティングファームの「Adoptive Path」を買収しています。
こうした動きは、ロジックだけで成立してきた戦略コンサルティングの世界もそろそろ行き詰まりを感じていることの表れで、デザインという「センス」の代表格が今後のビジネスに非常に大きな影響を与えることの一つの証左と言っても過言ではありません。
経営は「4つの経営資源」をベースに成り立つ
周知のように企業経営に必要な要素を経営資源と呼び「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」を4大経営資源と呼びます。
「ヒト」は経営者、従業員などの人的資源、「モノ」は所有する土地建物等の物的資源、「カネ」は資金量や資金調達力で表される財務的資源、「情報」は企業に蓄積され、また利用可能な情報的資源を言います。経営はこの4つの経営資源をベースに成り立っています。
4大経営資源と、これに加えて、ロジックとセンスの2つの世界をマトリクスで表示すれば、以下の図表のように経営は8つの部分から構成されていることとなります。
[図表]2つの世界と4大経営資源
センスの世界・無意識の世界を、ビジネスの思考対象に
従来型の4大経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報はロジックの世界を対象にした言葉でした。しかしながら、私たちはロジックの世界だけの住人ではなくセンスの世界の住人でもあり、無意識の世界に時間の大半が費やされているならば、むしろセンスの世界・無意識の世界を、ビジネスの思考対象とすべきではないでしょうか。
4大経営資源で通常「モノ」といえば、企業が保有する生産設備や商品在庫といったモノを指しますが、この連載では、企業が販売する「商品・サービス」という意味で使用しています。また、通常「情報」といえばIT情報を指しますが、ここではもっと広義のコミュニケーションも含めて考えています。