往来型のマーケティングを支えた「論理」だが…
私たちの住む世界はロジック(論理)の世界とセンス(直観)の世界でできています。私たちはこれら2つの世界を行ったり来たりしながら生きています。
ロジックの世界は私たちが小学生の頃からその多くの時間を割いて学んできた世界であり、従前のビジネス環境下で慣れ親しんだ世界です。論理的であることが優先される世界で、直観的な発想は「勘」として敬遠され蔑まれてきた世界です。
左脳的な発想が好まれ、「分けること」が本質であるサイエンスの世界です。サイエンスであるが故に意識化された世界であり、言語で全て説明できる、つまり言語化できるものが全てであると考える世界です。
ロジックの世界は、論理で守られているので非常に確度が高く安全です。論理に従い因果関係で発想するため、大きな飛躍は期待できませんが地道な改善には適した世界です。
従来型のマーケティングの世界であり、戦略を論理的に作るのに適した世界です。この世界の代表者は競争戦略の大家マイケル・ポーターだと言えるでしょう。
行動の95%はセンス(直観)で決まる!?
一方、私たちはもう一つの世界の住人でもあります。それがセンスの世界です。直観的に物事を判断し行動する、右脳的に感じたままに動く世界です。分けることが意味を持たない、アーティストが生きるアートの世界です。
その世界は無意識下に横たわる世界であるので、言語で説明できない世界であり、「身体性」という言葉で置き換えることが可能な世界です。ロジックという鎧を纏わないので暗闇を手探りで進まざるを得ず、非常に危険な世界です。
確度は低いですが、ジャンプが利く世界です。今後ビジネスでも重要とされるクリエイティブの世界であり、表現を作る世界です。
この世界の代表者はスタートアップ理論で有名なエリック・リースでしょう。
私たちは常に論理的に考えて行動するわけではないし、直観で動くことも日常的には非常に多くあります。例えば、朝起きて、無意識のうちに洗面所へ向かい歯磨きをして顔を洗います。コンビニで「どのお茶にしようかな……」と合理的に考えてから商品を選ぶわけではありません。何となく新製品に手が伸びて買うこともあります。
あるいは、伊勢神宮などの神聖な空間に足を踏み入れた瞬間に感じる、非日常的な感覚をどう表現してよいのか分からなくてイライラした経験はないでしょうか。身体は感じているのだけれども、それを明確な言葉として表現できない無力さに失望するといった感じです。
このような経験は枚挙に暇いとまがないですし、私たちはむしろそういった感覚の世界で過ごす時間のほうが長いかもしれません。脳科学の世界でも、私たちの行動の95%は無意識に行っているとの研究結果があるほどです。
[図表]ロジックの世界とセンスの世界
客観性が高いツールは「説得」には役立つが…
私たちはロジックの世界とセンスの世界を行き来しながら日々生活しています。2つの世界を漂いながら生きているのに、ビジネスの世界では未だロジックだけで回そうとしています。なぜならロジックの世界は分かりやすく、何より楽だからです。
ロジックの代表選手である「数字」はとにかく明快です。「1」はどこから見ても「1」であって、「3」や「5」にはなりません。そこにセンスの入り込む余地はありません。「1」は万人にとって「1」なので客観的な共通言語として最高のツールです。数字を見せることができれば「ぐうの音も出ない状況」が容易に作り出せるわけです。
客観性が高いツールには説得しやすいという特性があります。説得する側は、根拠として明快な数字を示せばよいし、説得される側は数字の説明で理解した気になりやすい。何しろ後で弁明が立ちやすいのです。「この数字を示されたら納得せざるを得ない」と、ある意味責任転嫁がしやすく非常に楽なのです。