減少する人口、上昇する高齢者比率……様々な課題が日本企業に重くのしかかっています。しかし、これまで重要視されてこなかった「シニア人材」が日本企業を救う鍵となるかもしれません。本記事では、シニア人材が「生涯現役」で活躍するためのポイントを見ていきます。

高齢者が元気に働くことが、社会の負担を減らす

私は高齢者が働くことは、社会にとっても、企業にとっても、そして本人や家族にとってもメリットがあると思います。近江商人の言葉「三方よし」のように、一者だけではなく、三者にWINがあるのです。

 

社会にとっては、高齢者が元気になることで医療費や社会保障費を抑えられるというメリットがあります。病院の待合室では顔なじみの高齢者が集まり、「今日は山田さんが来ていないみたいね」「具合が悪いみたいよ」という会話が交わされているという話は、今も昔もよく耳にします。待合室が高齢者のサロン化しているということでしょう。

 

ほかに行く場がなくて寂しいから集まるのでしょうが、それなら働きに出て、職場で交流を持ったほうがいいのではないでしょうか。体が動かなくなって働けなくなった人もいるとは思いますが、多くの人は、やりがいをもって働き続けていれば体が動かなくなることはないのでは、と思います。

 

そして、健康になれば病院に通う頻度は少なくなり、医療費は抑えられます。老人ホームに入る高齢者が減るかもしれません。高齢者が元気に働くことが、社会の負担を減らし、日本全体を元気にすることにつながるのです。

シニア世代の雇用が「地域の活性化」につながる

また日本全体としては、これから先10年後くらいまで、高齢者がたいへん必要とされる時期が来ます。いずれロボットやAIがすることになる仕事も、もうしばらくの間は人間がするしかありません。真面目で働き者のシニア人材を企業の重要な働き手として、またロボットやAIの手本となる人材として活かせれば大きなメリットがあると思います。

 

私たちは首都圏で事業を展開していますが、地方には、まだまだ働けるのに働く場所がないというシニア世代が大勢います。そういう人たちに活躍できる場を提供できれば、地方での雇用が生まれ、地方が活性化します。今後は、地方でもシニア人材が活躍できる場所を提供するのが、私たちの役目だと考えています。

 

例えば、地方のシニア人材を活用するため、現在は日本の農産物を東南アジアなどの海外へ売り込む事業などを実現しようとしています。また、ブドウ農家と契約をして、国産のブドウを使ったワイン造りをシニア人材が担うことが成功すれば、おいしくて安心して飲めるワインとして人気が出るのではないかと考えています。

 

実際に、日本のワイン醸造技術は昔に比べると向上していて、山梨には世界的なワインコンクールで金賞を受賞しているワインもあります。今後は、地方各地でワイン造りが広まっていくのではないでしょうか。

 

また、地方には豊かな観光資源もありますから、観光客を呼び込むことで地方が活性化すれば、日本全体も活性化します。その観光資源を掘り起こすのはシニア人材でも十分できますし、実際に多くのシニア人材が村おこし、町おこしで活躍しています。

 

企業のメリットとしては、今まで述べてきたように、人件費を抑えながら人手不足を解消し、即戦力となる有能な人材を確保できることでしょう。貴重な技術や能力を持った人材が多いのもシニア人材を採用するメリットです。若者と60〜70代のシニア人材とが一緒に仕事をすることでお互いに刺激を受けるため、新しいアイデアが生まれやすくなるのではないかと思います。

シニア人材が働くことで夫婦仲も円満に!?

さらに、奥さんが喜ぶというメリットもあります。

 

定年退職してずっと家にいられると「毎日顔合わせてうっとうしい」と思うようになるのが、奥さんの本音のようです。

 

毎日3食分の食事の支度をするのは大変です。はじめの3カ月や半年ぐらいはまだ我慢してもらえるかもしれませんが、だんだんと不満がたまっていきます。定年前は、奥さんにも自分の生活、自分の社会があったはずですから、そこへ旦那さんが割り込んでくるとなると、何かと気が重いわけです。

 

そのうえ、今までは旦那さんが一生懸命働いてくれていたので食事の世話をするのは当然だと思っていたのが、働かなくなると奥さんにとっては商品価値が下がります。旦那さんが何気なく「靴下はどうした?」「風呂沸かせ」「メシ」などと言っていたのが、だんだんその言葉の重みがなくなって反感を抱かれるようです。だから、不満がたまってしょっちゅう喧嘩している夫婦もいます。

 

週に数日でも仕事で外へ出れば、ずっと家にいることで奥さんが感じるストレスは軽くなります。奥さんも「何か世の中のためにやっているんだな」と、引き続き尊敬してくれるでしょう。

 

このように、シニア人材が元気で働くことによりあらゆるところでメリットが生まれるのです。社会がもっと全面的に受け入れ態勢を整える時期に来ているのではないかと思います。

ボランティアにはない「責任の重さ」がやりがいに

「社会に貢献するなら、仕事ではなくてボランティアのほうがいいのではないか?」という考えもあるでしょう。私は仕事のほうがいいと考えています。

 

最近では、災害の被災地などでボランティアをしている方の様子をテレビでよく拝見します。自分のお金と時間を使って被災地へ行き、被災者のために働くのは、確かにすばらしいことです。私は、お金のためではなく自分の信念から人のために働くことを、決して否定するわけではありません。

 

ボランティアと仕事の大きな違いは、責任の重さです。報酬が発生しない分、残念ながらボランティアのほうが責任は軽いと思います。熱心にやっている方もいますが、集合時間に遅刻したり、当日に連絡もなく参加しなかったりする方もいるという話も聞きます。やはり、どこかで「お金をもらっていないのだから、これぐらいのことはいいだろう」という甘えが出るのかもしれません。

 

また、ボランティアは単発で参加する方が多いので、持続性が弱いという欠点があります。なかには、何年も続けられている方もいると思いますが、震災のボランティアは短期間の参加がほとんどでしょう。

 

一方、仕事の場合は、本人だけでなく会社にも責任が発生しますから、いい加減なことはなかなかできないものです。遅刻や無断欠勤などもってのほかですし、他の社員にも迷惑をかけるので途中で投げ出せません。そういう責任の重さは、ボランティアではとても味わえない良い刺激になるし、やりがいにもなるのです。

給料を稼ぎ、使うことが「社会貢献」につながる

これは私の印象なのですが、ボランティアでいろいろな活動をしている人たちの中には、人間関係がうまくつくれなくて孤立してしまう人が結構な割合でいるのではないかと感じます。高齢者でも人間関係がうまくつくれる人はボランティアではなく、会社で仕事をして活躍できる人が多いでしょう。

 

ボランティアもいいことですが、もっと積極的に周りの人とつながってネットワークができれば、もう少し広がりができるのではないかと思います。

 

また、企業は直接顧客の役に立つかだけではなく、収益を上げて税金を納めることで国と社会にも貢献しています。雇用も社会貢献になるのです。

 

そのような観点から見れば、万年赤字の企業は社会貢献をしているとはいい難い部分もあるでしょう。企業は黒字になれば税金を納める。それが世の中のためになっています。税金は国や地方自治体からあちこちに分配されて社会インフラなどに使われているので、社会への貢献度という意味では非常に大きいのです。

 

ボランティア活動には税金がかかりませんから、そういう点では社会への波及効果は小さいといえます。

 

給料を稼いで、そのお金を使って大きな買い物をしたり旅行に行ったりすることも、もちろん経済効果の一つです。やはり会社で働くほうが、さまざまな社会貢献につながっているのではないでしょうか。

 

 

中原 千明

基金運営研究所株式会社 代表
一般社団法人年金基金運営相談センター 理事長
株式会社CN総合コンサルティング 代表

 

本記事は、2017年5月29日刊行の書籍『シニア人材という希望』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

シニア人材という希望

シニア人材という希望

中原 千明

幻冬舎メディアコンサルティング

超高齢社会の到来とともに、日本人の働き方は大きく変わる――。 都市銀行でマネジメント職を歴任。定年後に起業し、多数のシニア人材を雇用する経営者が語る“新しい労働の在り方"とは? 2013年4月1日、高年齢者雇用安定…

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