ファーウェイCFO逮捕の裏には経済的な背景も
12月1日トランプ米大統領と習近平中国国家主席は、両国が新たな関税措置の発動を一時的に見送り、報復合戦を激化させないこと、90日間の通商交渉期間を設定することで合意した。
市場は、これを好感する形で今週初こそ反発したが、こうした動きは持続しなかった。ここまでは、想定の範囲内だったが、6日に中国のスマートフォンメーカー、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟CFOが、米国の対イラン制裁に違反した疑いで、カナダで逮捕されたニュースが伝わると、米中関係が再び悪化するとの懸念が広がり、市場心理を冷え込ませた。香港ハンセン指数は2.5%下落、H株指数も2.6%安、上海株指数も1.8%ほど下げた。中国・香港の市場では、テクノロジー銘柄の下げが目立った。
米司法省は今年4月、米国の対イラン輸出制裁に従わずファーウェイがイランに製品を不正に輸出した疑いで捜査に着手していた。孟CFOはこの不正輸出に関わった疑いで、米国から身柄引き渡しを求められた。中国側は、今回の逮捕に激しく反発しており、米中首脳合意により進展すると見られた通商協議が前途多難であることをうかがわせる。
米商務省が、イランと北朝鮮への制裁措置に違反したことを理由に、中国の中興通訊(ZTE)に制裁を発動したことは記憶に新しい。多額の罰金と経営陣の刷新など、米国の要求をZTEが受け入れたことで制裁は解除されたが、ZTEは破綻寸前まで追い込まれた。
米議会には、国家安全保障の観点から中国の通信機器会社という括りで、ファーウェイもZTEも米市場から締め出すべきとの意見が強い。米WSJ紙が伝えたところでは、米国は同盟諸国に対し、ファーウェイを使わないよう求めたという。
実際にオーストラリアやニュージーランド、英国では、ファーウェイを締め出す措置を既に取っている。日本政府も、安全保障上の観点から、ファーウェイとZTE社の製品を、各府省庁や自衛隊などで使用する機器から排除する方針を固めたと読売新聞が7日に伝えている。
こうした動きがファーウェイの業績に与える悪影響は相当なものになるだろうが、関連するサプライヤーもまた影響を受けるだろう。半導体関連、通信関連の業種への影響は今後注意しなければならない。
筆者は、貿易摩擦の裏には、半導体などの産業での主導権争いも影響していると指摘してきたが、それは顕在化してきている。国家安全保障の観点とはいえ、排除の論理が先にたつことは、米中間の通商協議にプラスには働かないだろう。
世界経済が順調に成長してきた背景には自由な貿易体制があった。先月、ポールソン元米財務長官は、世界は「経済的な鉄のカーテン」によって分断されるかもしれないとコメントしたが、それは成長を阻害する要因となる(ちなみにポールソン氏は「(カーテンは)世界経済を破壊する」と述べたそうだ)。市場には、米中合意による安堵感よりも、貿易摩擦が長期化することへの懸念を強めている。
FRBが金融政策のスタンスを変更する可能性は?
こうした中、米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融政策のスタンスを変更する可能性が取りざたされ始めた。一連の利上げの効果が顕在化するまでには、時間が掛かる。それを見間違えると、金利を上げすぎて、経済を失速させてしまうリスクを高めることになる。パウエルFRB議長の最近の発言や11月のFOMC議事録からは、こうしたリスクの認識がFRB内にも出てきていることを感じさせる (関連記事『FRB議長発言「変化」の背景…11月のFOMC議事録を読み解く』参照)。
一方で、パウエル議長が、6日の講演でも指摘したように、米国経済は全般的に非常に良好に推移していることは事実であろう。雇用市場は力強く拡大を続けており、賃金は徐々に上昇している。本日7日には、11月の雇用統計が発表されるが、雇用市場の状況に大きな変化はないだろう。今月18・19日に開催する連邦公開市場委員会 (FOMC)では、今年4回目の利上げ(0.25%の利上げ)を実施すると予想している。利上げを実施した上で、FRBが来年以降の見通しを変えてくるのかどうか、注目される。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO