今週(12/4〜12/10)の国際マーケット展望。12月1日、G20後に会談したトランプ米大統領と習近平国家主席は激化する両国の関税合戦に対し、90日間の「休戦」で合意した。これを受け、3日の中国株、香港株、米ドル金利は上昇。市場のリスク選好度も高まることが予想される。しかし、貿易摩擦の根本的解決には、構造改革や具体的な行動が不可欠であり、悲観的になりすぎる必要はないものの引き続き注視の姿勢を続けたい。

「一時休戦」で合意した米中…それぞれのメリットは?

トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は12月1日、G20首脳会談後に会談し、両国が新たな関税措置の発動を一時的に見送り、報復合戦を激化させないこと、通商交渉を今後加速させることで合意した。

 

米国は、中国製品2000億ドル(約22兆7140億円)に今年9月から課している関税を10%のままで据え置き、来年1月1日から予定していた25%への関税率の引き上げは先送りすると発表した。先送りの期間は90日で、トランプ大統領がかねてから不満として指摘する中国による知的財産権の侵害や非関税障壁などの貿易慣行に関して協議を開始し、90日後に進展がない場合には、米国が関税率を25%に引き上げると発表した。

 

中国は、この交渉に応じるとともに、米国との貿易不均衡を是正するために市場の開放と、輸入の拡大を約束した。前者については、米国産自動車への関税の引き下げ、後者については、米国からの農産物、エネルギー関連製品や工業製品の購入をすぐにでも実施するとのことである。

 

 

トランプ大統領は今回の会談について「生産的で、米国と中国の双方に無限の可能性をもたらす」との声明を発表した。中国側も、会談が非常に成功したとの認識で両国が一致したと発表した。

 

今回の合意は、短期的には、中国は米国からの追加関税の先送りという成果を得られ、米国は中国経済の構造的な是正への圧力をかけながら、中国による輸入拡大を約束させた他、代替の効かない中国製品の輸入によるコスト上昇を当面回避できる訳で、双方にプラスになる点は確かであろう。

 

市場では、このひと月ほど、悲観的なシナリオに傾き、それを織り込んできた。今回、報復合戦が休止され、追加関税が時限的にも見送られて、米中間の紛争激化がひとまず回避されたことで、多少の安心感が広がり、リスク選好度は高まるだろう。今週は、株は中国株・米株を中心に上昇、債券は米債利回りが上昇、為替はドル高に反応するだろう。実際、3日のアジア時間では、中国株や香港株は約2.5%上昇。米ドル金利も上昇した。

日米貿易摩擦に照らして、根本的解決には時間を要する

しかしながら、こうした反応が持続するかどうかは、疑問である。今回の首脳会談での合意は、米中間の問題や意見の対立点を解消するには至らない暫定的なものと筆者は受け止めている。90日間の交渉の進展に期待したい。

 

従前から指摘している通り、貿易摩擦は、長期間の構造的な改革と多くの具体的な行動の結果でしか解消されない。かつて日米貿易摩擦が両国間の問題として注目されてから、長い年月が必要となったことが例である。

 

加えて、トランプ大統領は、次期大統領選挙に向けて、保護主義的な主張を継続すると考えられる。今回のG20では、声明に保護主義と闘うというくだりを入れることができなかった。これはトランプ大統領の意向を汲んだ米国の主張が曲げられなかったためであると伝えられている。根本は変わらないということだ。世界経済にとっては、まだ、保護貿易という雲が晴れて先行きを見通せるという状況ではない。

 

従って、今回の合意が、米国経済の景気サイクルの次の局面に入る、すなわち拡大局面の峠を越えて下降期となり、世界経済を減速させるのではないかという慎重な見通しを大きく変化させるには力不足であろう。よって、市場でも、リスク資産が急騰し、持続的な上昇につながる可能性は低いとみておくべきだろう。

 

希望が見える点としては、米中双方ともに、通商協議を継続することにインセンティブがあることだ。差しあたって90日という期限は設定されているが、米中協議が短期間で破綻する事態に至るという見方も悲観的過ぎるように思う。足元で、経済的にマイナスとなる要因も和らいだ部分がある。90日間の米中協議の成り行きを見守ろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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