米国雇用統計発表…12月の利上げは予想通り「実施」か
先週7日に米国労働省が発表した雇用統計(11月)では、失業率が3.7%で前月から変わらず、約50年ぶりの低水準を維持した一方、非農業部門雇用者数(季節調整済み)は前月比15万5000人増と事前予想の19万人増を下回り、平均時給の伸びも前月比0.2%増にとどまった。
雇用者数と賃金の伸びがいずれも市場予想を下回ったことで、市場では今後の米国経済の先行きを心配する見方も台頭している。しかし、雇用統計は、短月の数字で判断すべきではなく、雇用者数の増加は、3ヶ月平均でも15万5000人増加と、雇用者の増加を吸収するに必要な(1ヶ月あたり)10万人を大きく上回っている。パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が、6日の講演でも指摘したように、雇用市場は力強く拡大を続け、賃金は徐々に上昇している。雇用統計からは、米国経済は全般的に良好に推移していると捉えるべきであろう。
今月18・19日に開催する連邦公開市場委員会 (FOMC)では、今年4回目の利上げ(0.25%の利上げ)は予想通り実施されるだろう。利上げを実施した上で、FRBが来年以降の見通しを変えてくるのかどうか、FOMCの声明文やドットチャートには注目しておきたい。
ファーウェイ孟CFO逮捕…米中通商協議への影響は?
さて、市場では、米中合意より、ファーウェイの孟CFO逮捕の方が、注目されている。孟CFOは1日、米国の対イラン制裁に違反した容疑でカナダ当局によりバンクーバーで逮捕された。
中国の反発は、予想以上に強く、中国外務省は8日に、カナダの駐中国大使を呼び出して、厳しく抗議した。それに止まらず、翌9日には、楽玉成外務省次官がブランスタッド駐中国・米国大使を呼び出し、逮捕について抗議した上で、必要なら「さらなる行動」を取ると警告した。楽次官は米国の行為について「中国国民の正当な権利と利益」を侵害しており、「極めてたちが悪い」と批判したという。
中国外務省のブランスタッド大使の呼び出しがどの程度、両国間の緊張の高まりを意味するかは、はっきりしない。
冷静に考えれば、米中首脳会談で、双方にとって、時間が経てば痛みも大きくなる貿易摩擦を解決しようと合意したところである。トランプ政権としては、孟CFO逮捕に対する中国の批判的な反応には一定の理解を示しながらも、問題を混同しないで、冷静に、通商協議を進めることを中国には働きかけるのではないか。トランプ大統領からは、本件に関して、ツイッターなどでも、声が聞こえてこない。
通商交渉の責任者でもあるライトハイザ-米通商代表部(USTR)代表も、米テレビ番組に出演し、孟CFO逮捕に対する中国の反応は理解できるが、これは米国の対イラン制裁に違反した容疑で逮捕された刑事事件であり、米中間の通商協議とは全く別の問題であると述べた。
ライトハイザー氏は、今後、イラン制裁を遵守しなかった中国企業の行動は、刑事責任を問われる公算は大きいとまで述べた。中国の知的財産権侵害や制裁違反に対しては、米当局の捜査が拡大していると言われており、今後も米中間の外交問題の火種は出てくる可能性がある。
いずれにしても、通商協議の期間は90日間の期限が切られている。期間の延長も望めないだろう。米中間の協議が進展し、中国が関税障壁の撤廃や構造改革や米国製品への市場開放にコミットしなければ、2000億ドル相当の中国製品への関税は、間違いなく10%から25%に引き上げられる。そうなれば、世界経済への影響はやはり大きい。
英国でEU離脱の合意案が採決…見えぬ可決への道
もうひとつ、今週、気になるところは、英国議会で英国のEUからの離脱に関する合意案が可決されるかどうかである。メイ首相は、主要閣僚との協議を週末も継続したようだが、採決に臨んでも、可決される見通しが見えていない。
採決延期のほか、再協議による離脱合意案の修正をEUに求めることや、アイルランド国境に関する最も異論の多い条項を巡り英議会の発言の余地を拡大することなどが議論されているようだが、合意案の修正にEUが強く難色を示していることからすると、厳しい選択を迫られよう。
欧州では、フランスの暴動も沈静化の兆しがなく、イタリアの予算案問題も燻っている。今週も、師走相場とはいえない波乱の展開に備える姿勢で臨みたい。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO