ピクテ投信投資顧問株式会社が、日々のマーケット情報を分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報のディープ・インサイトを転載したものです。

 

米国と地理的並びに経済的に近いことから、カナダの政策金利に注目しました。カナダは米国、メキシコとの間で新たな貿易協定「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」に署名しましたが、カナダ中銀の評価も気になるところです。全体として、カナダ中銀は今後の景気動向に懸念を示すトーンでした。市場は利上げ予想時期を後ずれさせました。

カナダ中銀:政策金利を市場予想通り据え置くも、声明文のトーンはハト派寄り

カナダ銀行(中央銀行)は2018年12月5日、政策金利である翌日物金利の誘導目標を市場予想通り現行の年1.75%で据え置くと発表しました(図表1参照)。前回10月会合では0.25%の利上げを実施しました。

 

[図表1]加ドル(対ドル)レートと米加政策金利の推移

日次、期間:2016年1月1日~2018年12月4日
日次、期間:2016年1月1日~2018年12月4日

 

カナダ中銀は今回の声明で世界経済に対する見通しを悪化させるなどハト派(金融緩和を選好)寄りの姿勢を示しました。市場では、カナダ(加)ドル安が進行しました。

どこに注目すべきか:USMCA、米中貿易戦争、ガソリン価格、CPI

米国と地理的並びに経済的に近いことから、カナダの政策金利に注目しました。カナダは米国、メキシコとの間で新たな貿易協定(USMCA)に署名しましたが、カナダ中銀のUSMCAに対する評価も気になるところです。全体として、カナダ中銀は今後の景気動向に懸念を示すトーンでした。市場は利上げ予想時期を後ずれさせました。

 

 

まず、グローバル景気に対しカナダ中銀は楽観的な見方を後退させました。0.25%の利上げを実施した前回(10月)の声明文ではグローバル経済の見通しを「強い」と表現していました。しかし、今回の声明文では、米中貿易戦争による世界経済に対する影響への懸念から「緩やか」と表現を和らげているからです。

 

カナダ中銀は下落傾向となっている原油価格の動向にも懸念を示しています。原油価格下落の背景として、世界の景気回復ペースの鈍化、米国などの供給過剰を指摘しています。

 

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原油価格の動向はカナダ中銀のインフレ見通しを引き下げる方向に作用したと見られます。カナダの消費者物価指数(CPI)は10月が前年同月比2.4%で、9月の同2.2%を上回っています(図表2参照)。CPIはカナダ中銀のインフレ目標である2%を上回る推移が続いてはいますが、今後のインフレ見通しは弱まった印象です。背景として、原油価格の下落を反映してガソリン価格が大幅に低下しています。過去のCPIとガソリン価格の連動から、カナダ中銀はCPIの今後の低下を想定している模様です。

 

[図表2]カナダ消費者物価指数(CPI)とガソリン価格の推移

週次、期間:2016年1月4日~2018年11月30日、CPIは月次、10月迄
週次、期間:2016年1月4日~2018年11月30日、CPIは月次、10月迄
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

もっとも、カナダ経済は堅調な国内需要を背景に概ねカナダ中銀の見通しに沿う展開との見方を維持しています。エネルギーセクターの投資にはやや懸念を示すも、他のセクターが堅調に推移すると見込んでいます。

 

なお、米国などとの貿易協定であるUSMCAについては、9月末にようやく合意された後に開催された10月の声明では評価が高い印象でしたが、その時に比べ、今回はUSMCAが12月月初に署名されたとはいえ、やや冷静な印象です。

 

今後の金融政策についてカナダ中銀は中立レンジまで政策金利を上げる必要性を指摘しており、利上げを続ける姿勢は示しています。ただ、カナダ中銀がハト派寄りとなったことなどを反映して市場では利上げの時期を後ずれさせています。先物市場の織り込み度合いを見ると、11月末でも過半が19年1月の利上げを想定していましたが、足元は19年3月の利上げ見込みにシフトしています。

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米国に近いカナダ中銀だから、市場の見方を学ぶ』を参照)。

 

(2018年12月6日)

 

 

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梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト

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