利息金額が減ることによって、税金は高くなる?
(1)借り換えの落とし穴
借入金残高が1億5,000万円、残年数が10年、3.5%の固定金利で借りられている大家さんがいました。
もともと資金繰りが厳しかったこともあり、何とかならないものかと考えていた矢先、ある銀行さんから、金利1.5%の固定金利で融資できるとのことで、借り換えを実行しました。
借り換えにあたり、違約金などの諸費用500万円になったが、こちらも合わせて融資できるという条件でした。
現在の返済額が月約150万円程度で、完済までの利息の合計が約2,800万円に及びます。
「借り換えた後は、返済額が月約140万円程度になり、完済までの利息合計が約1,200万円。
借り換え費用がかかったとしても充分メリットがある」と判断しました。
しかし、実際に借り換えてみると、税引き後のキャッシュフローが全く楽にならなかったのです。
というのも、利息金額が減ることによって、税金が高くなることを見込んでいなかったのです。返済額が月10万円減ったことにより、年120万円支出が減ります。
それに対し、増加する税金(この人の税率は、所得税・住民税・事業税を合計して45%)が1年目で126万円ですから、キャッシュフローとしては悪くなっています。
[図表1]「利息が減る」→「税金が高くなる」の仕組み
(2)利息総額よりもキャッシュフロー改善を優先
これではキャッシュフローが苦しくて、借り換えた意味がありません。
では、借り換えない方がよかったのでしょうか?
利息が高いままより、低い方がよいことは間違いありません。
借り換えないままでも、利息は減っていきますので、いずれ増加する税金によってキャッシュフローが苦しくなる時期は訪れます。「税金が高くなっても支払額が減る」ことを優先するべきだとは思います。
しかし、短い借入期間の場合、諸費用を上乗せして借り入れることでキャッシュフローが悪くなる可能性があることを念頭に置かなければなりません。
このケースでは、借り換えの際に、返済期間を長く設定できないかどうかを交渉すべきだったと考えます。
この大家さんが仮に10年の返済期間を15年の返済期間にしていたら、年間500万円の返済額が減ります。税金が高くなっても、キャッシュフローは楽になったのではないでしょうか。
資金繰りが厳しいのであれば返済期間を長く設定
(3)金利よりも期間の改善が大切
キャッシュフローの改善を目的に借り換えをする場合、「毎月の返済額を減らす」のと、「総返済額を減らす」のでは、どちらを重点に検討した方が良いのでしょう。
たとえば、既存の借入内容が以下の場合、借り換えプラン①②のどちらを選択するべきでしょう?
[図表2]既存借入内容
[図表3]借り換えプラン
総返済額を減らす目的であればプラン①になりますが、キャッシュフローの改善という観点では、借り換えプラン②が適した選択になると考えます。月々の資金繰りは、返済期間を延ばした方が楽になるのです。資金繰りが良くなる分、手残りも増やせます。
利息の支払合計は増えてしまいますが、残った手残りを貯めて繰り上げ返済をすれば、利息の負担もなくすことが可能です。
このように手残りを増やすことで、繰り上げ返済、新たな投資、物件の維持管理などの用途に使えることになります。
言い換えれば、「経営の選択肢が増える」のです。これが経営の安定にも繋がることになります。
資金繰りが厳しいのであれば、金利よりも返済期間が長く取れる金融機関への借り換えをおすすめします。
なら、今の金融機関に支払い期間を延ばしてもらうのがいいのでしょうか?
今の金融機関に返済期間を延ばしてもらうことも可能ですが、その金融機関にとっては条件変更(リスケジュール)に該当し、格付けが下がる可能性があります。
そうなると、今後の融資にも影響する恐れがあるため、返済期間を延ばすのであれば、別の金融機関に借り換えした方がよいでしょう。
資金繰りが厳しいときの借り換えの原則は「利息の支払合計」より「キャッシュフローの改善」を軸にしましょう。
渡邊 浩滋
税理士・司法書士渡邊浩滋総合事務所代表 税理士
司法書士
宅地建物取引士