エアラインが自社調達によるオンバランス取引ではなく、オペレーティングリースを利用して航空機を取得する背景には複数の異なる事情が存在しますが、それは経済的理由だけに限りません。
例えば、これまでエアラインは保有する機体の調達や現金化(セール・アンド・リースバック)、急な航空輸送需要の増加に対応するためにオペレーティングリースを積極的に活用してきましたが、それだけではなく機材計画(フリート戦略)の柔軟性向上、投資リスクの軽減、残存価値リスクの移転等を目的に航空機リースは活用されています。
これらの要素をまとめると、エアラインが航空機リースを活用する理由として次の7つが挙げられます。
①人気機種の調達
近年、航空機の需給は逼迫(ひっぱく)しており、人気の高い機種や最新鋭機においては、注文から納入(デリバリー)まで、最短でも5年以上かかることも珍しくありません。
そのため、エアラインは10年単位の超長期の機材計画(フリート戦略)を作成し、航空機メーカー(OEM)との受注調整を行います。そこまでしないと新造機を予定どおりに取得できないのですが、このような戦略が取れるのは信用の高い大手エアラインのみに限られます。
そのため、中小のエアラインが人気の高い機種や最新鋭機を取得する手段としてはオペレーティングリースが現実的な手段となるのです。また大手エアラインにおいても、長い年月を経てようやく航空機がデリバリーされてくるのですが、5年や10年先となると良くも悪くも市場環境や財務状況は計画を立てた時点から異なってしまうのは避けられません。
悪化していた場合は、発注のキャンセルや、それだけでなく違約金の支払いという状況にもなりかねませんし、時には会社の屋台骨を揺るがす事態に発展することもあります。逆に、良化していた場合でもせっかくの成長のチャンスに際して航空機が足りないという状況に陥ってしまいます。そこから急いで発注しても受け取るのは次の5年後になってしまうので、このような場合にもオペレーティングリースは有効な選択肢となるのです。
②財務的な柔軟性
航空機は非常に高額のため、購入に際しては大手エアラインでも巨額の借り入れを行うことが一般的です。その結果として貸借対照表に巨額の負債を計上することになり、会社の財務内容や信用格付けに悪影響を与えてしまいます。
ところがオペレーティングリースとして航空機を取得(リース)すると機材コストを営業費用として取り扱うことができるようになるため、財務的な柔軟性を目的にオペレーティングリースを選択することは大手エアラインでも珍しいことではありません。
そのほかにも、少々後ろ向きな要素も含みますが、エアラインにとって航空機はキャッシュが不足したときの換金手段の一つにも成り492航空機投資の魅力得、業績が悪くなった会社が本社ビルを売却するように、エアラインも経営が苦しくなったとき、もしくは何らかの理由によってキャッシュが必要になったときに、自社が保有している航空機を売却しリースとして継続利用する、いわゆるセール・アンド・リースバックによって資金調達を行うことが選択されることがあります(※2)。
※2 エアラインの財務諸表を見る上で「固定資産(機材)売却益」は粉飾決算を見抜くためにも非常に重要な要素である。経営が悪化したエアラインは不足する流動性や収益を航空機のセール・アンド・リースバックで補うことがあり、航空機の売却価格を中古市場価格より高く設定し、差額をリース料に上乗せ(プレミアム)して支払うことで架空利益を一時的に捻出することが可能となる。したがって、固定資産売却益が連続して計上されている場合は注意すべきと言える。
エアラインにとって航空機の自社保有は「リスク」
③機材戦略の柔軟性
エアラインにとって路線ネットワークと航空機は最も重要な経営資源ですが、同時に経営リスクの塊でもあります。
路線ネットワークと航空機の両方に共通しているのは一度決定すると変更が難しいという点であり、例えばある新規路線の採算が想定よりも(はるかに)悪かったからといっても航空路線改廃は容易なことではありません。改善策としてコスト削減のためにより小さな航空機に変更するサイズダウンという施策がありますが、こちらも自社保有機では簡単に航空機を入れ替えることはできません。
これは一例ではありますが、エアラインにとって航空機を自社保有するということはさまざまなリスクを内包することにもなり得るため、オペレーティングリースによって機材の柔軟性を高めることも重要な視点となります。
また、これは別の視点として、特にLCC(ローコストキャリア)がオペレーティングリースを好む理由の一つですが、オペレーティングリースを活用しある一定の年数を経過した航空機はリースを延長せずにまた新規に新しいリース機で入れ替えることで運航機材の平均機齢を若く保ち、経年による整備費用の増加を抑制するような機材戦略をとることも可能となります。