経済成長よりも、長期金利の上昇に市場は反応した?
今週は、米国株式市場の動きが激しく、あわただしい一週間となった。
振り返ってみれば、今年は、市場とFRBの見方のかい離が顕著な年だったように思う。米国経済の堅調ぶりを強調する米国FRBに対し、市場はかなり懐疑的な目を向けてきた。経済指標からみれば、GDP成長率も、消費動向も、小売売上高も、そして肝心の失業率も、いずれも、米国経済が着実に伸びているとの見方を支持するものといって差し支えないだろう。
しかし、市場は、それを受け入れられずに、むしろ、徐々に高まるインフレ圧力を抑制するための利上げが実施されるたびに、上昇する金利が経済の足かせとなり、成長シナリオが崩れるという懸念を強めてきた。
9月25-26日の公開市場委員会FOMCで、フェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを2.00%-2.25%に引き上げる今年3回目の利上げを決定した後は、まさに、そうしたかい離が、市場とFRBとの間で著しくなっていったといえるだろう。
特に、10月に入ると、長期金利が上昇し始め、3.20%へと水準訂正を起こすかのような急反応を示したことは、市場の構えが十分でなかったことを示すものとして、筆者は指摘してきた(関連記事『イタリア債がジャンク級に?財政赤字目標「GDP2.4%」の衝撃』、『株価続落…中国経済の成長モデルは急速に「内需主導型」へ?』参照)。
ダウ平均、S&P500…「2月安値」が相場の転換点か
しかし、金利が上昇すると、実体経済への影響は少なからず出てくるものである。それに加えて、一部で企業業績の伸びが予想を上回らなかったことや、原油高・関税制裁実施など否定的な材料が株離れを促しつつあるのではないだろうか。
実際には、企業業績はまだ良好な数字が続いている。経済指標も赤信号というほどのものは少ない。経済実態は、市場が恐れているようには、腰折れのリスクは、増大していないのではないかと、筆者は考えている。
S&P500株価指数でみれば10月に7%余り下落したものの、1年前の水準と比べれば依然5%強上回っている。今年2月につけた安値も下回っているわけではない。ただ、ナスダックは、このところ、IT銘柄や小型株銘柄の下落幅の拡大で調整が大きい点は、注意してみておきたい。また、ダウ平均やS&P500が、2月安値を下回れば、相場の転換点とみるべきかもしれない。それまでは、調整とあえて表記しておく。
このまま4回目の利上げ実施は自然な流れだが…
さて、今週に入ってからも、FOMCで投票権を持つメスター・クリーブランド連銀総裁やクラリダFRB副議長の発言が伝えられた。メスター氏は、「株式相場がさらに深く持続的に下落すれば信頼感を損ない」、「リスクを取る意欲や支出の後退につながりかねない」ことは認めながらも、現時点では、そうしたリスクシナリオからは程遠いとの発言。
クラリダ副総裁も、就任後初の講演で、米経済に関して、ファンダメンタルズは「極めて堅調だ」と語った。彼らの発言からは、これまでのFRBのスタンスから何らかの変化を見出すことはできない。
米株式相場の混乱が長期化しない限り、米国実体経済に影響はそれほどなく、経済成長の見通しを変えるほどではないということだろう。これは、すなわち、12月に実施されるとみられる今年4回目の利上げは、予定通りそのまま実施されることを意味する。
市場でも、FF(フェデラルファンド)先物市場では、8割がた次回の利上げ実施を織り込んでいる。相変わらず、市場とFRBの見方のかい離は存在するという、リスクのある状況が続いている。
現状は、米中貿易摩擦や、原油高、欧州での波風など、不透明感を高める材料は目白押しではあるものの、米国経済の持続的な拡大は継続しており、ほぼ「完全雇用」の労働市場が実現されている。そして、賃金の上昇率は3.0%に迫っているため、コアインフレ率も2%程度に上昇する可能性が高まっている。このような状況下で、雇用の最大化と物価の安定を使命とするFRBが、段階的に利上げを継続する姿勢を維持することは、もっともなことといえるだろう。
ただ、パウエルFRB議長は前回9月の利上げ後、やや強気に表現をしすぎたのかもしれない。特に、今後2年間にわたってもFRBは段階的な利上げを継続する方針であるというくだりは、市場との「かい離」を気づかせるには、薬が強すぎたのかもしれない。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO