今回は、米国不動産の相続時における「プロベート」を回避する方法を見ていきます。※本連載では、日米間の相続対策の基礎知識から、米国トラストを利用した資産形成や相続対策などを見ていきます。

一般的な「リビングトラスト」以外にも手段あり

米国不動産を個人で所有、または他人と共有(共通占有:Tenants in Common)している方が亡くなった場合、その不動産の名義変更(相続)を行うには「プロベート」という裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続きが必要となります。遺言書に「米国の不動産は長男に託す」「米国の金融資産は長女に託す」と明記されていてもプロベートは必要となり、裁判所の手続きを踏まないと実際の相続(名義変更や売却)ができません。

 

前回(関連記事『米国の資産管理で活用したい「リビングトラスト」の仕組み』参照)述べたように、米国ではプロベート回避に有効な手段として「リビングトラスト」が用いられるのが一般的です。トラスト合意書を作成し、死亡時にトラストに残された資産を誰が受け取るのかを明記しておきます。米国不動産をあらかじめトラスト名義にしておくことで、所有者の死後は裁判所の関与なく、受取人への名義変更が可能になります。

 

プロベートを回避するもうひとつの手段は「Transfer On Death Deed」という書類で、不動産の「死亡時の受取人」をあらかじめ指定しておくことです。

 

Transfer On Death Deedが利用できる州は限られていますが、この書類で不動産の受取人をあらかじめ指定しておくことで、所有者が亡くなった時にプロベートなしで不動産を相続することが可能になります。死亡時の受取人を指定したTransfer On Death Deedは、不動産が所在しているカウンティの登記所に登記をしないと有効になりません。

 

リビングトラストは米国にあるすべての資産に適用されるのに対して、Transfer On Death Deedは該当する不動産だけが対象となります。

 


 
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◆Transfer On Death Deedが利用可能な州

アラスカ州・アリゾナ州・アーカンソー州・カリフォルニア州・コロラド州・ワシントンD.C.・ハワイ州・イリノイ州・インディアナ州・カンザス州・ミネソタ州・ミズーリ州・モンタナ州・ネブラスカ州・ネバダ州・ニューメキシコ州・ノースダコタ州・オハイオ州・オクラホマ州・オレゴン州・サウスダコタ州・バージニア州・ワシントン州・ウェストバージニア州・ウィスコンシン州・ワイオミング州

 

Transfer On Death Deedの規定は、州によってそれぞれ異なります。たとえば、2016年に導入されたばかりのカリフォルニア州では、すでに2021年1月1日での廃止が決まっています。

指定された受取人が「死亡または相続放棄」したら?

Transfer On Death Deedは、死亡時の受取人の指定をするだけで「代わりの受取人」を指定することはできません。該当不動産を相続する前に、指定された相続人が亡くなった場合や、税金対策などで相続放棄をした場合は、死亡時の受取人が指定されていなかった、つまりTransfer On Death Deedが存在しなかったとみなされ、プロベートが必要になってしまうのです。

 

Transfer On Death Deedでは「Aが相続しなかったらBに」「売却してAとBに」「Aが未成年だったらBに」というような条件をつけることができません。また、所有者の死亡時にプロベートを避けることができても、病気などの理由で所有者が資産管理や不動産の売却手続きができなくなった場合には問題が発生してしまいます。Transfer On Death Deedを利用する場合には、委任状もセットで用意することが好ましいといえます。

 

Transfer On Death Deedによって、該当不動産の名義変更(相続)が裁判所の関与なく可能であっても、その他の米国資産がプロベートの対象となる可能性もありますので注意しましょう。

 

 

佐野 郁子

弁護士法人 佐野&アソシエーツ 弁護士

 


 
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