トラストに相続対象の財産を託して、プロベートを回避
米国に資産を有する方は、米国の「エステートプラン」が重要となります。「エステートプラン」とは、病気やその他の理由で渡米できなくなり、米国にある所有資産の管理ができなくなった時や、亡くなった時に米国の資産をどうするか、あらかじめ対応できるように、法的に有効な書類を準備しておくことです。遺言書(Will)やリビングトラスト(Living Trust)などが挙げられます。特にリビングトラストは、プロベートを回避するのに重要な役割を果たします。
「遺言書」は日本でも一般的ですが、人が亡くなった時に所有財産を「誰にどれだけ託すか」遺産分割を明記した書類です。米国では、遺言書があっても遺産分割や相続手続きはプロベートを通して行われます。また、遺言書は被相続人が亡くなって初めて効力を持つ法的書類ですので、ご病気などで資産管理ができなくなった時には役立ちません。
「リビングトラスト」も遺言書と同様、ご自身がお亡くなりになった時の財産分割を明記した書類です。遺言書と異なる点は、生前に作成した「トラスト」に相続対象の財産を移してしまうため、「個人で所有している資産がない・相続の対象となる財産はない」とみなされるためプロベートを回避できることと、ご自身で資産管理ができなくなった時にも役立つという点です。
3者の役割から成り立つ米国のトラスト
トラストとは「信託」と訳されますが、日本でいう「信託」とは性質が異なります。
トラストは必ず、①セットラー(設立者)、②トラスティ(管財人)、③ベネフィシアリー(相続人)という3者の役割によって構成されています(委託者・受託者・受益者の3者から成り立つ日本の信託とは異なります。)
米国には様々な種類のトラストがありますが、「リビングトラスト」とは米国のトラストの一種で、正式名は 「revocable inter vivos trust」 という特別なトラストです。近年では(米国では相続税の基礎控除額が大きいため)リビングトラストは節税対策というより、プロベートを避けるために利用されることが一般的です。
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<リビングトラストの構成>
①生前に「トラスト合意書(Trust Agreement)」を作成し、ご本人 (以下「セットラー」)が署名をすることによってリビングトラストは設立します。 登記をする法人ではありません。
②トラスト合意書でトラストに託す米国資産を明記し、それらの資産をリビングトラストに移します。個人名義で所有している米国資産をリビングトラスト名義に変更することが重要です。
③トラストに移した資産を管理する人(以下「トラスティ」)を指定します。セットラー自身が最初のトラスティになります。リビングトラストでは最初のトラスティとして委託業者を利用することはありません。セットラー自身がトラスティとなることで、トラストに託した財産でも(あたかもトラストが存在しないかのように)引き続きご自身の所有財産として財産を増やしたり、売却したり、贈与したり、利用することが可能になります。
④万が一、トラスティが怪我や病気などの理由で資産管理ができなくなった時や、渡米できなくなった時に資産管理や売却を代行してくれる代わりのトラスティ人(以下「サクセッサートラスティ」)を予め指定しておきます。
⑤相続人を指定し、セットラーの死後トラストに残された資産を受け取る人 、つまり相続人(以下「ベネフィシアリー」)を明記しておきます。セットラーの死後はサクッセサートラスティがトラストに定められた指示に従って財産分与(遺産分割)を行います。
米国の税法上、個人の所有財産とみなされる
<リビングトラストのメリット>
①セットラーの生前は、その方の個人納税者番号がトラストのタックスI.D.(納税者番号)になるため、生前はトラストが所有する財産であっても、米国の税法上は(あたかもトラストが存在しないかのように)個人の所有財産としてみなされます。これが「リビングトラスト」の最大の特徴です。トラストを作られた方が亡くなった時点で、初めて法人としての扱いになる特別なトラストです。
②トラストに移した財産でも、ご自身で資産管理ができる間は「トラストとセットラーが一体化している」とみなされ、トラストに移した財産でも引き続きご自身の所有財産として扱うことができます。リビングトラストは何度でも内容変更が可能です。
③病気などで米国の資産管理ができなくなった時には、あらかじめ指定したサクセッサートラスティがトラストの資産管理や売却を代行することができます。
④セットラーが亡くなった時には、サクセッサートラスティがトラストに明記されている指示に則って、裁判所の介入なく財産分与を遂行します。プロベートの必要がないためスムーズに財産分与(遺産分割)が進められ、迅速かつ確実に相続手続きを完了させることができます。何よりも相続人やその他の遺族に苦労をかけずに済みます。
米国に資産を有する方は、万が一に備えて、また米国での相続手続きでトラブルにならないように、リビングトラストを活用することが好ましいでしょう。
佐野 郁子
弁護士法人 佐野&アソシエーツ 弁護士
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