「共同名義」での財産所有が一般的なアメリカ
アメリカに不動産や金融資産を所有している方が亡くなった場合、財産を相続するには、遺言書の有無に関わらず、プロベートという裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続き(関連記事『米国に資産がある人は要注意!相続の壁となるプロベートとは?』参照)が原則として必要となります。
しかし例外として、プロベートの対象にならないものもあります。本記事では、その条件について解説していきます。
●「Joint Tenancy(共同名義)」で所有している財産
アメリカでは、銀行口座や不動産は夫婦の「Joint Tenancy(共同名義)」で所有するのが一般的です。夫婦でなくても、第三者と共同名義で所有することも可能です。
共同名義人の1人が亡くなったとき、その財産は残された共同名義人の財産とみなされます。そのため、遺言書で「その財産を誰々に託す」と明記されていても、Joint Tenancyで所有している財産は残った共同名義人のものとなり、相続は発生しません。
なお、同じ共同名義でも「Tenancy in Common(共通占有)」という形態もありますが、Tenancy in Commonで所有している財産はプロベートの対象になります。
●「Pay on Death Beneficiary(死亡時の受取人)」が指定されている財産
生命保険や投資口座には、「Pay on Death Beneficiary(死亡時の受取人)」をあらかじめ指定しておくのが一般的です。遺言書で「その財産を誰々に託す」と明記されていても、指定された死亡時の受取人が優先的に相続します。
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遺言書と同じ働きをする「リビングトラスト」
●「リビングトラスト」名義で所有している財産
アメリカでは、時間と費用が莫大に掛かるプロベートを避けるために「リビングトラスト」を利用することが一般的です(関連記事『米国の資産管理で活用したい「リビングトラスト」の仕組み』参照)。「トラスト合意書」という書類を作成し、個人名義で所有している不動産や金融資産をトラストの名義に変更します。そして、トラスト合意書にあらかじめ死亡時の受取人(相続人)を明記しておきます。つまり、リビングトラストは遺言書と同じ働きをしますので、生前にリビングトラストの名義に変更していた財産は、プロベートの必要なく、指定された受取人へ相続が行われます。
●「Transfer on Death Deed(TODD)」で死亡時の受取人が指定されている不動産
「Transfer on Death Deed」で不動産の登記所有者が亡くなった時の受取人をあらかじめ指定できる州があります(関連記事『米国不動産の相続…厄介な「プロベート」を回避するには?』参照)。不動産が所在しているカウンティの登記所でTODDをきちんと登記しておくことで、プロベートなしで不動産を相続することが可能になります。遺言書で「その不動産を誰々に託す」と明記されていても、TODDで指定された受取人が優先され相続します。
上記以外の財産は、プロベートの手続きを経て相続が行われます。遺言書がある場合は、最終的には遺言書に指定された相続人が財産を相続します。
遺言書がない場合や、プロベートで遺言書が無効であるとみなされた場合には、州法に基づく法定相続人が相続します。アメリカでは州によって法律が異なるため、法定相続人の定義も州ごとに変わります。
アメリカに不動産や金融資産を有されている方は、それらの財産をどのような形態で所有しているか確認し、相続対策の必要性について専門家にご相談されるのが好ましいでしょう。
佐野 郁子
弁護士法人 佐野&アソシエーツ 弁護士
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