前回は、人生にも影響を及ぼす芸術が持つ力について触れました。今回は、日常生活を通して「芸術をたしなむ力」を磨く方法を見ていきます。

勉強のみでは、知識は増えても「教養」は深まらない

これまでの話から芸術の効果や必要性を知って、「さっそく芸術を勉強しよう!」と思っている方。それはちょっと待ってください。「芸術の教養を深める=勉強する」ではありません。

 

日本人は昔からとても勤勉だと言われます。それは美徳の一つですが、反面、「何事も学習一辺倒になりやすい」という短所にもなり得ます。

 

例えば、英会話を習得したいとき、あなたならどうしますか?英会話スクールに通ったり、参考書を使って学習する人が多いかもしれません。これらももちろん、効果がないわけではありません。

 

けれども、ただ学校や本で勉強するだけで英会話が劇的に上達するかというと、それはとても難しいでしょう。「英語がペラペラ」になりたいなら、生活のなかで、実践的に英語を話す機会をつくるべきではないでしょうか。

 

芸術の教養を身に付ける場合もそれは同じです。美術史を勉強したり、画家の名前やその代表作を暗記したりするだけでは、あまり効果はありません。知識は増えますが、教養は深まらないからです。

 

芸術の教養を身に付けるのも、実践が大事。

 

実際に芸術作品を観たり、聴いたりするからこそ、脳や心が刺激され、普段の生活では味わえない感情を得られたり、深く物事を考えたりできるのだと思います。それが教養を深め、人間力を高めることにつながります。

 

芸術をたしなむために、日常的に芸術に触れる場を増やしましょう。

身辺の美しいものに意識を向け、美的センスを磨く

さらにもう一つ、私が芸術をたしなむ第一歩としておすすめしたいのが、身のまわりの美しいものや自分がアートだと思うものに意識を向けること。

 

これは私自身が日々、実践している方法です。

 

私は街を歩くときも、買い物や飲食店に行っても、とにかく「観る」ことを習慣にしています。ただ眺めるのではなく、あらゆるものを「観察する」のです。

 

毎日銀座を歩きながら、季節ごとに変わるショーウインドウはもちろんのこと、歩く人のファッションや看板のデザイン、道路を走る自動車、空の雲の形や道路工事の様子まで、いろいろなものに目を向けるようにしています。銀座の高級専門店・和光のショーウインドウは毎回楽しみですし、それ以外にも思わぬところに色や形の美しさ、面白さがあるものです。

 

また、私はインテリアが大好きなので、お店のなかでは家具や照明のデザイン・レイアウト、壁材や床材、従業員の制服などをチェックしますし、飲食店ならば食べるだけでなく、食器や盛り付けを観ることも楽しみます。

 

そうやって毎日を楽しんでいると、いつの間にかそれが周囲を観察する訓練になっていて、芸術に対してもっと興味や関心が持てるようになりますし、美しいものや心に響くものを見つける目と第六感も磨かれます。

 

日本には昔から、季節感や四季折々の風情を大切にする文化があります。年中行事もたくさんあり、それが生活のなかに溶け込んでいます。

 

ですから、私たちには、暮らしのなかにある何気ない美しさや味わいを感じ取り、愛でる感性がDNAに刻み込まれているはずです。意識して毎日のなかにアートを見つけて、その眠っているDNAを目覚めさせましょう。

 

最近とても驚いたと同時に、嬉しかったことがありました。

 

この春、私のギャラリーで「いちご」をテーマにした展覧会とお茶会を開催したときのことです。茶室スペースの装飾がものたりないと感じていたところ、スタッフの一人が道端でさっと何種類かの雑草を持ってきて、花器に生け始めたのです。

 

「こんな感じでどうでしょう?」

 

「いいじゃない!」

 

出来上がった作品は、生けてあるものが雑草とは思えないほど格好よく、私はとても感心しました。さらにその後、生け花の先生にも観ていただいたのですが、「すばらしい。素敵なものを見つけたわね」とお褒めの言葉をいただくことができました。

 

草を生けてくれたスタッフは、華道を習ったことはありません。けれども、毎日ギャラリーで美術品に触れ、日常生活で美しいものに目を向けているなかで、自然と美的センスが磨かれていたのでしょう。それがプロに褒めてもらえるような生け花の作品として表れたのだと思います。

 

教養としての「芸術」入門

教養としての「芸術」入門

山田 聖子

幻冬舎メディアコンサルティング

多数メディアで活躍中の「ギャラリスト」が解説! 初心者でも楽しみながら学べるはじめての「芸術」ガイド。 【目次】 第1章 日本人は「芸術」への関心が不足している 第2章 「芸術」は世界共通の“コミュニケーションツ…

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