今回は、ギャラリストの著者が「ロケーションのよさ・建築物の魅力・展覧会の企画内容」の視点で選んだおすすめの美術館を紹介します。※本連載では、芸術をたしなむことによるビジネス上のメリットのほか、芸術の魅力や味わい方まで、銀座で画廊を経営するギャラリスト(美術商)がわかりやすく解説します。

建築物・ロケーションが魅力的な美術館

参考までに、筆者が癒やされている美術館をここでご紹介します。好きな美術館はほかにもたくさんありますが、挙げ始めればキリがないので「立地条件(ロケーション)のよさ」「建築物の魅力」「展覧会の企画内容」といった観点から選んでみました。

 

【碌山(ろくざん)美術館】

 

明治に活躍した彫刻家・荻原守衛(おぎはらもりえ)(碌山)の作品を保存・公開するために設立された美術館で、長野県安曇野市にあります。碌山は画家を目指していましたが、フランス留学中にロダンの作品を観て感動したのをきっかけに彫刻家に転身し、のちに「東洋のロダン」と称される近代彫刻の礎を築いた彫刻家として知られています。

 

この美術館には、彫刻作品のほか、碌山の絵画も展示されています。また、フランス留学時に知り合って友人となった、高村光太郎の彫刻作品も観られます。

 

私がこの美術館を初めて訪れたのは、小学校低学年の頃です。その頃はまだ彫刻作品のすばらしさを十分に分かっていませんでしたが、子ども心に「素敵な美術館だなぁ」「また来てみたい!」と思ったのを覚えています。

 

展示棟の一つが、外壁に焼きレンガを積み上げた蔦の絡まる西欧教会風の建物で、そのまわりの庭には木々や草花が多く、季節によってさまざまな花や紅葉を楽しめます。小さいけれど、ロマンチックな雰囲気が味わえる美術館です。

 

【奥村土牛(おくむらとぎゅう)記念美術館】

 

現代日本画家の最高峰と言われる奥村土牛の素描(デッサン)を収蔵している美術館。長野県の南佐久郡佐久穂町にあります。101歳で亡くなるまで、筆を持ち続けた画伯の下図や書などもあわせた207点の作品のなかから、常時45点ほどの作品を展示しています。

 

建物は大正時代から昭和のはじめに建築された日本家屋で、立派な日本庭園もあり、作品とともに和の趣を感じられます。庭園では季節によって、土牛が作品に取り上げた草花を鑑賞できるのも魅力です。

 

シンプルですが、とても素朴で雰囲気のある美術館です。

 

【足立美術館】

 

日本画の巨匠・横山大観(よこやまたいかん)の作品を中心に、日本画や陶芸、童画を1500点収蔵。島根県安来市にあり、年間の入場者数が50万人を超える人気の美術館です。

 

足立美術館がこれほど人気を集めているのは、その日本庭園の見事さが大きな理由の一つ。アメリカの日本庭園専門誌『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』が毎年発表している「日本庭園ランキング」では、2017年まで、15年連続で日本一に選ばれています。

 

その庭園は主庭の「枯山水庭」をはじめとした6つの庭からなり、借景の山を含めて約16万5000平方メートル(5万坪)にもなります。その広大な庭の美しさを保つため、年中無休で、毎朝、専属の庭師と職員約30名が1時間かけて清掃し、日中は庭師が手入れを行っているそうです。

 

美術館の創設者である足立全康は、91歳で亡くなるまで「庭園もまた一幅の絵画である」という信念を持っていたそうで、館内には、庭園を絵画や掛け軸に見立てた「生の額縁」や「生の掛け軸」などの仕掛けもあります。庭園も一つの作品として楽しめる美術館です。

 

また美術商という立場からみると、収蔵作品への深い愛情を感じられるのが、足立美術館のもう一つの特長だと思います。広い館内を生かし、作品が見やすくゆったりと展示されていますし、他の美術館への貸出審査はとても厳しいと聞きます。

 

横山大観のコレクションは質・量ともに日本一なので、庭園だけでなく、収蔵作品もじっくり鑑賞する価値のある美術館です。

都心からもアクセスの良い美術館3つ

【根津(ねづ)美術館】

 

東武鉄道の初代社長で、「鉄道王」と呼ばれた根津嘉一郎が収集した日本や東洋の古美術コレクションを展観している美術館。東京・表参道駅の近くにあります。

 

政治家として、実業家として、また教育の分野でも活躍した一流の大人物の審美眼に触れることができる多彩な収蔵内容で、国宝を7点も収蔵。なかでも尾形光琳「燕子花図」屛風や「那智瀧図」などが有名です。古美術初心者から上級者まで、存分に堪能できると思います。

 

かつて根津嘉一郎邸の庭だったという庭園がまたすばらしく、この美術館の見どころとなっています。自然の傾斜を生かした形で、池や茶室もあり、ところどころに石仏、石塔、石灯篭などが置かれていて、散策すると心が落ち着きます。都会の真ん中とは思えない静寂や四季の美しさが感じられます。

 

【平塚市美術館】

 

神奈川県のほぼ中央に位置する平塚市にある美術館です。

 

最近の美術館での企画展はマスコミ主催のものが多く、その美術館ならではの独自企画がとても少ない傾向があります。そんななかで、平塚市美術館の企画展は、学芸員自らの手で企画され、歴史的な文脈の延長線上に現代作家をとらえた貴重な内容の展示が多いのが魅力です。人気作家に注目したエンターテインメント性の高い展示から、本当に美術を愛好する「通好み」のする、心に余韻を残すような内容の濃い展示が多く、何度も訪れたくなる美術館です。

 

【横須賀美術館】

 

百聞は一見にしかず。この美術館の魅力を知るには行ってみるのが一番です。

 

なんといってもすばらしいのは、全国の美術館のなかで「絶景美術館ベスト5」にも選ばれるそのロケーション。三方を緑の山に囲まれ、もう一方の北側に広がるのは東京湾。雄大な海を往来する船を遠くにぼんやり眺めていると、時が経つのを忘れます。併設されたレストランのメニューもおいしいと評判で、休日には行列をなすほどの人気です。

 

展示内容も魅力的で、現代作家をたびたび取り上げており、個展やグループ展を行っています。『週刊新潮』の創刊から26年間、表紙絵を担当した谷内六郎の展示室(谷内六郎館)も併設されていて、あの詩情溢れるノスタルジックな作品世界を楽しめます。

 

豊かな自然に囲まれたこの美術館は、都心から1時間ほどの場所にありながら、非日常を味わえる場所です。

教養としての「芸術」入門

教養としての「芸術」入門

山田 聖子

幻冬舎メディアコンサルティング

多数メディアで活躍中の「ギャラリスト」が解説! 初心者でも楽しみながら学べるはじめての「芸術」ガイド。 【目次】 第1章 日本人は「芸術」への関心が不足している 第2章 「芸術」は世界共通の“コミュニケーションツ…

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