前回は、なぜ航空機が「キャッシュフロー投資」の対象として理想的であるのかを解説しました。今回は、航空機価格が安定している理由を見ていきます。

耐用年数が極めて長く、市場の動きも底堅い航空機

エアラインが一般的に使用している航空機の耐用年数は25年以上と極めて長いのが特徴です。航空機もほかの資産と同じく、中古市場はその時の経済情勢に沿って変動するほか、リスクイベントの影響も受けますが、歴史的に長期にわたって比較的底堅く推移しています。資産投資の検討に際しては中古市場の動きは最も考慮すべき要素の一つですが、航空機はほかの投資資産と比較しても安定した価値形成を特徴とする資産クラスです。

 

中古市場の激しい値動きは投資家にとって悩みのタネだったり、逆にチャンスだったりするかと思いますが、航空機はこれまで触れてきた数々の特徴(強い需給環境や公共性の高さなど)や航空市場の予測可能性によって、価値の変動がある程度軽減される傾向にあります。例えば、市場が低迷期や経済危機に見舞われたとしても、航空機の発注と納入(デリバリー)との間には年単位の時間差があるため、需給バランスが短期間で崩れるような状態は発生しづらい環境にあります。

 

言い方を変えると、激しい経済環境の変化に対して「数年間の猶予期間」を持つことができる需給環境にあるのです。もちろん猶予期間が終われば、緩やかに需給バランスは崩れ始めることになりますが、その時に経済環境が回復していれば、需給バランスの崩壊は緩和されます。そして、最悪の経済危機が何年にもわたって継続するケースはあまり一般的に想定されるものではありません。

 

中古市場の動きは、もちろん機種によってその特性は大きく異なります。値動きが大きなものもあれば、逆にこれから上がるものもあるかもしれませんが、重要なことは投資目的や目標とするリスク・リターンに合致した機種を選択することです。航空機の機種ごとの特性や使用されているテクノロジー、需給環境にバックオーダー等、多くのことを考慮して取得する機種を選定し、投資戦略を立てることこそが航空機投資の一丁目一番地ですが、その戦略設計は資産クラスとしての航空機の大きな特徴の一つである価格安定性を生かすべきと考えます。

 

この価格安定性をもたらす航空機ならではの要素には、(1)世界経済の成長に支えられる航空機需要、(2)大手2社による寡占供給(高い参入障壁)、(3)技術的に成熟した資産、(4)厳しい検査制度と高い整備品質、という4つの項目があります。今回はその(1)と(2)をご紹介したいと思います。

世界経済の成長に支えられる航空機需要

これまで何度か触れましたが、GDPの伸びと航空旅客需要(旅客キロメートル)と航空機の需要の間には、深い関係性があります。世界経済が発達すればするほど人の動きは活発になり、その航空旅客需要の増加に伴い航空機の需要も成長してきました。過去26年間の世界の航空旅客輸送量(≒航空旅客需要)は年平均4.9%で成長を続けており、これは15年で大体2倍になるペースです。今後しばらく(少なくとも今後20年程度)はこの水準の成長が継続すると見られています。

 

世界経済の成長と高い相関を示しかつ強い増加トレンドを見せる航空旅客需要ですが、同時にリスクイベントや外的ショックに対する高い耐性を有している点も特筆すべき点です。過去45年のあいだに複数のリスクイベントが発生しましたが、それでも世界の航空旅客輸送量は成長を続けてきました。

 

湾岸戦争や9.11アメリカ同時多発テロといった戦争・テロやSARSなどの感染症の大流行(パンデミック)、さらにはリーマンショックといった経済危機に世界的なリスクイベントに対して旅客需要は少なくない影響を受けますが、過去45年間の動きにおいて通年で旅客数が前年割れとなったのはたったの4回(第一次湾岸戦争、9.11アメリカ同時多発テロ、SARS、世界金融危機)しかありません(※1)。

 

※1 「通年」の定義にもよるが、連続する12カ月の合計が前年割れとなったのは3回にとどまり、金融危機とSARSをまとめて1回として分析する調査結果もある。

 

加えて、たとえリスクイベントが発生したとしても、航空機旅客需要は底堅く存在しており、その後の景気拡大期にはおおむね平均を上回る成長を記録することでリスクイベント時の落ち込みをカバーしてきました(1992~2000年の年平均成長率:5.7%、2003~2008年の年平均成長率:6.6%、2010~2016年の年平均成長率:6.2%)。

 

航空旅客需要は世界レベルでの人の動きに根ざした需要であり、各国や地域個別の影響を受けづらい特徴があります。例えば2011年に発生した東日本大震災ですが、日本に与えた影響は経済的にも社会的にも計り知れないものでしたが、世界の航空旅客需要に与えた影響は軽微でした。同様に、日本では大きく取り上げられなくとも世界各地ではさまざまなことが起きています。2016年の世界の紛争犠牲者は昨年から1万人減少したものの15.7万人と想像を絶する数(※2)でしたが、やはり世界全体の航空旅客需要を減少させるほどのインパクトは持ち得ていません。

 

※2 英国の有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)による調査結果報告より(2017年5月9日)。

 

この特性は成長性についても当てはまり、日本を含めた先進国の視点では「需要が毎年5%成長」「15年で人の移動が2倍に増加」という話はどうしても実感を持ちづらいところがありますが、世界全体は引き続き成長の余地を残しています。表現を変えると、航空機投資は「世界全体の成長に参加することができる類まれな機会」を提供するものなのです。

 

ここまで航空旅客需要について触れてきましたが、この旺盛な航空旅客需要に牽引され航空機需要も堅調に成長してきました。成長性やリスクからの回復力が航空旅客需要の特徴ですが、航空機需要はさらに安定した動きを見せます。これは航空機を運航するエアラインの業界特性が深く関わっていますが、わかりやすい理由を一つ挙げると、例えば航空機1機を運航するためにはその機種専用の免許を持ったパイロット約10人にその数倍のCA、さらに整備や地上職など多くの人員が必要となります。

 

したがって、航空機を仮に1機減らすとなると関わるこれらの人員をどうするかという問題も同時に発生するのです。この一例からも航空機数を増減させるのは簡単ではないことはご理解いただけるかと思います。

 

航空機需要についてはもう一つ重要な要素があります。それは「路線」です。航空旅客需要と路線は互いに深く影響しあっており(※3)、路線と運航回数の関数によって航空機の需要が決定されます。航空機が就航するということはその都市の経済、時には政治とも密接に関係しますし、航空券は数カ月~1年前から販売を開始するために、業績が一時的に厳しくなったからといってエアラインの一方的な都合により運航停止を決定することは容易ではありません。

 

※3 航空移動の需要が前提となって路線が決定するかというと必ずしもそうであるとは限らず、路線やネットワークが張られることによって人の動きが活性化されることも珍しくない。ある空港とある空港が繋(つな)がることにより思いもよらない経済効果が生まれることもあり、乗り継ぎなど含めると航空ネットワーク戦略は複雑極まるものとなる。

 

さらにエアラインの経営が厳しくなった場合でも、公共性の高さを考慮し公的資金の投入やほかのエアラインによる支援等によって路線と運航が継続されることは特段珍しいことではありません。

 

エアラインが路線の改廃を簡単には行わないもう一つの理由が、空港における発着枠(スロット)の存在です。現在フルサービスキャリアの多くは小さめの航空機で地方空港から都市の国際空港に集約していくハブ・アンド・スポーク戦略を採用していますが、ここで重要となるのが各地域からハブ空港への乗り継ぎの利便性です。

 

到着便と出発便を順序よくまとめることで乗り継ぎの利便性を高めているのですが、これをバンク構造と呼び、国内線で地方から旅客を集め長距離国際線の収益性を高めるこの施策はハブ・アンド・スポーク戦略における重要施策の一つです。

 

このバンク構造は限られた発着枠を調整して構築されており、一度路線を撤廃してしまうと次に就航したときに希望の(競合エアラインも欲しがっている)時間の発着枠を手に入れることはほぼ不可能です。それどころか人気の空港であれば再就航に何年も待つことも有り得ます。

 

LCCではポイント・トゥ・ポイント戦略を取ることが多いですが、その場合でも収益性を最大限にするため、需要の高い時間帯の発着枠は何よりも重要な権益です。これら複数の背景によって、エアラインは一時的に航空需要が落ち込んだり、収益が悪化したりしても航空機を持ち続ける傾向にあると言えるのです。

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

航空機投資研究会、澁田 優一、野崎 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

航空機市場が世界経済とともに成長を続ける理由や航空機投資はエアライン企業への株式投資と何が違うのか、他の現物投資と比べた場合の圧倒的なメリット、どの機体を選んで投資すべきなのかなどをわかりやすく解説。

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