今週(10/1〜10/8)の国際マーケット展望をお届けする。先週、イタリア政府が発表した政府予算案は、財政赤字目標をGDP2.4%とし、EUの要求する削減目標に応じない形となった。これを受け、イタリアの債務格付けが懸念されており、ユーロにも売り圧力がかかっている。米ドルは米債券利回りの上昇などを背景に、引き続き上げ傾向。貿易摩擦による下落が予想されたドル円も、日本政府の交渉への素早い動きが影響し上昇。114円台をうかがう展開も考えられる。

イタリア政府予算案 財政赤字目標は想定よりも高め

イタリア政府は、先週、提示する見通しである政府予算案の前提として、2019年の財政赤字目標を国内総生産(GDP)の2.4%とすると表明した。

 

イタリア政府としては、政権安定化のためには、世論に迎合的な政策を取らざるを得ないということは致し方ないのだろうが、これが欧州連合(EU)内で政治的反発と衝突を招き、イタリアの債務に注目が集まった結果、債務格付けにも下げ圧力となる可能性が懸念され始めている。実際に、先週末には、ブルームバーグが、イタリアの債務格付けを主要格付け会社が引き下げる可能性について報じた。

 

コンテ伊首相は、イタリアは債務削減を望んでおり、成長を通じて債務を削減していくと述べたが、ドムブロフスキス欧州委員会副委員長(金融安定・金融サービス担当)は、イタリアの予算案の前提となる財政赤字の水準は、欧州連合(EU)のルールから逸脱している可能性があるとの見方を示した。

イタリア債務格付けへの懸念で為替はユーロ安

イタリア債務格付けは、現在は、主要3社のいずれもジャンク級(投機的格付け)となる格付けから2段階上に位置付けられている。ムーディーズ・インベスターズ・サービスはイタリアの格付け見通しをすでに「ネガティブ(弱含み)」としており、10月に見直しを発表する予定である。フィッチ・レーティングスは8月31日にイタリアの債務格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたところである。

 

フィッチの前提は、来年の財政赤字がGDP比2.2%、2020年が同2.6%だったが、ディマイオ伊副首相は28日、20年の財政赤字が2.4%、その翌年も同水準を見込んでいると語っており、前提は悪化している。投機的格付けとなれば、機関投資家などがイタリア国債を購入しづらくなり、債務の調達に支障が出るほか、支払金利の上昇を通じて財政への圧力も増す。すぐに2段階以上に格下げを受ける可能性は考えにくいが、1段階でも格下げがあればイタリア関連の資産を機関投資家が保有しづらくなり、イタリア財政には圧迫要因になるだろう。

 

当然ながら、イタリアの債務格付けへの懸念は、為替市場でユーロへの売り圧力となった。先週末は、ユーロは対ドルで1ユーロ=1.1605ドルまで値を下げたが、イタリア政府のスタンスが柔軟ではないようなら、8月につけた1ユーロ=1.1340ドルの安値をうかがう展開も考えられる。

 

一方で、米ドルは、米債券市場の利回り上昇やリスクテーク意欲の高まりを背景に上昇を続けている。ドル円相場は、こうした米ドル買いの流れに加え、日米間で貿易摩擦が顕在化する前に、日本政府が機先を制し貿易協定を目指して交渉に入ることを決めたことや北朝鮮に関する地政学的緊張の緩和もあり、質への逃避シナリオの後退から、米ドルが上昇、114円台をうかがう展開となるのではないか。

 

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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