FOMC声明から「緩和的」が削除された論旨は明白
米国FRBは、9月25-26日にFOMCを開催し、フェデラルファンド(FF)金利の目標誘導レンジを2.00%〜2.25%に引き上げることを決定した。これで、今年に入って3回目の利上げを実施したことになる。
FRBの使命は、雇用の最大化と物価の安定である。米国経済の持続的な拡大局面で、力強い労働市場は実現されているし、コアインフレ率は2%程度にコントロールされ目標は守られている。その点では、堅調な経済状況下で、実質金利がゼロであることから、状況を確認しながら、段階的に利上げを継続することはもっともなことである。今回のFOMC声明から「緩和的」との文言が削除されたことも、それと整合する。筆者も、一連の利上げは、確かな判断に基づいた正しいものであると評価している。
なお、パウエル議長は9月27日にも、米経済が今後2年間に景気後退(リセッション)入りする可能性は低いとの強めの認識を示し、FRBは段階的な利上げを継続する方針であることを示した。
論点 FRBは中立的な金利政策を継続できるか?
しかしながら、今回の利上げとFOMC後の発表などからは、今後、中立的な金利政策スタンスを展開するなかで、以下の諸点で、議論を呼ぶのではないかと考えている。
1)FRBが利上げ後に発表した声明文によると、利上げの理由として、①米国における雇用の伸びはこの数カ月堅調に推移しており失業率も低い水準を保っていること、②家計支出に加えて、企業の設備投資が力強い伸びを示していること、③そのうえでコアインフレ率は2%近くにとどまり、長期的なインフレ期待は、変わっていないことが挙げられた。
①②は従来通り、米国経済が堅調に推移し拡大を続けていることであり違和感はない。むしろ今回の利上げを肯定するには十分であろう。しかし、③はインフレを懸念しなければならない状況ではないという意味であれば、今後議論を呼ぶことになるのではないか。
2)ドットチャートによれば、今後は、年内にもう1回の利上げ、そして来年は2回の利上げを実施する見込みとのことである。これは、前回までの利上げ見通しと変わりがない。ただ、この点では、市場の温度感とはやや乖離が生じてきているようにも思える。一連の利上げによる経済活動や金融市場への影響をどう織り込んでいくかは、今後議論を呼びそうである。これまでの利上げの影響は、やはり今後徐々に現れることになるだろう。
政策金利が上昇することで、ローン金利などは着実に上昇し、消費や家計支出に影響を与えるだろう。また、長期金利が上昇すれば、広範に資産価格に影響が生じうる。また、米国の金利上昇は、米国経済への影響にとどまらず、資本移動や為替レートの変動などにより、拡大傾向にある新興国の安定的な成長に少なからず影響を与える。
3)更に、貿易摩擦の影響もじわりと出てくることは否定できない。パウエル議長もその点は認めている。米国経済の現状は「過去10年を振り返って、輝かしい局面にある」とその堅調ぶりを評価する一方で、8月のFOMCから言及するようになった貿易摩擦問題について、今のところは表面化している悪影響は限定的と評価しながらも、「企業が景気の先行きに自信を失えば投資が減るかもしれない」とコメントし、ネガティブな可能性にも言及している。
4)最後に、トランプ米大統領との関係である。トランプ大統領は、早速、FRBの利上げ実施に反発した。FRBは明言はしていないが、トランプ米大統領の利上げを打ち止めにするようにとの要請を退け、今後も独立して判断することを宣言したものと解釈できる。FRBの中立性も含め、今後に注目が集まろう。
※ 参考 Chairman's FOMC Press Conference Projections Materials - FRB
(https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcprojtabl20180926.pdf)
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO