家を相続させるためには「土地」に関する記述が必要
<事例4>
被相続人の死後、自筆証書遺言が発見されました。その自筆証書遺言には、被相続人が所有していた建物が具体的に記載されており、これを妹の一人であるAさんに相続させるとの一文がありましたが、なぜか土地に関しては何も記されていない状況でした。
そのため、Aさんは建物を相続できましたが、その建物が建っている土地を相続できず、他の相続人から「その土地を処分したいので立ち退いてほしい」と言われかねないと、不安でいっぱいです。
自筆証書遺言は、「検認」という手続きを経なければなりません。これは、家庭裁判所で遺言書を開封し、その形状や、加除訂正の状態、日付、署名などを確認し、遺言書の偽造・変造を防止するための措置です。
この事例では、検認を行った時点では、Aさんに相続させる建物の記載が登記簿通り、「居宅、木造瓦葺弐階建、床面積・・・」と完璧になされており、遺言書には何の問題もないように思えました。
ところが、その後、よくよく確認をしてみたところ、遺言書の中で土地については全く触れられていないことに気づきました。建物の敷地をAさんに相続させるという記載がどこにも見当たらないのです。
つまり、遺言書を合理的に解釈するのであれば、Aさんに単独で相続させるのは建物だけであり、言及されていない敷地については、他の相続人にも相続させるのが被相続人の意思であるということができます。その場合、敷地については、他の相続人も法定相続分に応じて持分(所有権)を持つことになります。
そもそも、一般的に築年数の古い建物はほとんど資産価値がありません。資産として重要なのはむしろその敷地のほうです。このケースでも、家そのものの価値はゼロに等しいものでした。
また、Aさんは、敷地もあわせて単独で相続しなければ、建物の登記を移すことができません。そのままの状態が続けば、他の相続人から、「土地を売っぱらって、現金にしてみんなで分けよう。だから家を明け渡してくれ」と求められるおそれがあります。
したがって、被相続人がAさんに家を与えるために遺言書を作成したのであれば、敷地についても忘れずに記載しておくべきだったのです。
サンプルを参考に書くと間違いを見落とす恐れが・・・
それを失念してしまったのは、おそらく、被相続人が市販されている遺言書のマニュアル本をもとに、遺言書を作成していたからなのでしょう(被相続人の死後、その本棚から「遺言書の書き方」というようなタイトルの本が見つかり、中には付箋がいくつも貼られていました)。
そのようなマニュアル本に掲載されている遺言書サンプルなどをただ漫然と書き写してしまったり、あるいは多少アレンジして流用したりなどすると、重大な書き落としや間違いがあっても、なかなか気づかないものです。
この事例では、自筆証書遺言を作成したあと、弁護士のような法律の専門家に、遺漏や過ちがないかをチェックしてもらうか、さもなくば最初から公正証書遺言で作成すべきでした。
公正証書遺言であれば、公証人から、「敷地に関する記載はないですが、よろしいのですか?」などと指摘されていたはずであり、本ケースのような大きな過ちは間違いなく避けられたはずです。