遺言書さえあれば「争続」は防げたはずだが・・・
<事例3>
死亡した被相続人には、Aさん(姉)とBさん(妹)という二人の姉妹がいました。しかし、Aさんはすでに、子のCさんを残して亡くなっていました。相続人は、BさんとAさんの代襲相続人であるCさんとなります。
ただ、被相続人は、生前に遺言書を書いていませんでした。Bさんは被相続人と一緒に住んでいましたが、ある日突然、CさんがBさんを相手に遺産分割調停を申立てました。
祖父(被相続人)の所有していた一軒家に、CさんからすればおばにあたるBさんが暮らしていました。祖父が亡くなったことから、その所有していた家の相続を巡って紛争となったものの当事者だけでは解決できず、調停になったという事例です。
このケースでも、基本的には祖父が、Bさんに家を遺贈する遺言書を残していれば、トラブルは防ぐことができたはずです。筆者は、Cさんの代理人として調停にかかわったのですが、解せなかったのは、Bさんが、そのような遺言書の作成を父(Cさんからすると祖父)に勧めていなかったということです。
というのも、Bさんは、相続を巡る別の紛争を経験しており、相続に関しては、Bさんはある程度、法的知識を有していました。そのため、事前に遺言書を用意しておかなければ自分にとって好ましくない事態になることは予想できたはずです。にもかかわらず、遺言書を作成しなかったのはなぜだったのでしょうか?
兄弟姉妹の子も「代襲相続できる」点に注意
しいて理由を推測すると、もしかしたら代襲相続の知識がすっぽりと抜け落ちていたのかもしれません。
すなわち、姉のAさんが亡くなっていたことから、父が亡くなった場合、もはや自分以外には相続人がいないと、Bさんは思い込んでいたのかもしれません。ほかに相続人がいないのであれば、当然、家は自分のものになるので、遺言書を用意しておく必要はないと考えていたのでしょう。
しかし、兄弟姉妹の子どもは、代襲相続ができます。つまり、兄弟姉妹が亡くなっていたとしても、その子どもが代わりに相続人になるのです。
[図表]代襲相続の仕組み
この兄弟姉妹の子どもが代襲相続できるということは意外と見落とされがちですし、しかも、本事例では、BさんとCさんが平素は疎遠な間柄だったという事情もありました。そのため、ことさらに、代襲相続には注意が向かなかったのかもしれません。
このような、相続人は自分だけと思い込んでいたら、実はほかにも相続人がいた・・・という状況は実際よくあり、しかも相続トラブルの大きな原因となることが少なくありません。
「ほかに相続人がいないから遺言書はいらない」などと安心せずに、代襲相続の可能性などをしっかりとチェックして、万全の対策を心がけるようにしましょう。