ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界3大金融センターのひとつである香港。つねにアジアの金融ビジネスをリードしてきたこの地に、早ければ年内にも初のバーチャルバンク(仮想銀行)が誕生する見通しだ。バーチャルバンクの誕生によって香港の金融ビジネスはどう進化するのか? 利用者はどんなベネフィットを享受できるようになるのか? 現地より最新事情をレポートする。第4回目のテーマは、香港とシンガポールが共同構築する「GTCN」のインパクトについて。

中国大手IT企業が、フィンテックで香港に参入か?

香港金融管理局(HKMA)は、年内にもバーチャルバンクライセンスの認可を出すことで、域内におけるフィンテックの更なる発展を促し、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界3大金融センターとしての地位をより盤石にすることを目指している。

 

これは、HKMAが2017年9月29日に発表した「香港のスマートバンキングを新時代に導く7つのイニシアチブ」に基づく取り組みだ。HKMAはイニシアチブのひとつとして「バーチャルバンキングの奨励」を掲げており、それに沿って2018年5月30日、「バーチャルバンクライセンスの認可に関するガイドライン」の改訂版を発表した。

 

バーチャルバンクの定義はまだ不明確だが、店舗を持たず、バーチャルな顧客チャネルのみで銀行サービスを提供するインターネット専業銀行のような形態であると思われる。

 

単に無店舗営業する銀行への道を開くだけでなく、フィンテックを駆使した、いままでにない革新的な金融サービスを提供させることも、HKMAがバーチャルバンキングを奨励する狙いであろう。改訂された認可ガイドラインは、金融機関だけでなく、IT企業が主体となって銀行を創設・運営することを認めるものといえる。

 

これはバーチャルバンクに対して、伝統的な銀行サービスだけでなく、AI(人工知能)やブロックチェーン、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどフィンテックを採り入れた革新的な金融サービスの提供を期待しているからに違いない。

 

実際にどのようなプレーヤーが名乗りを上げるのかはまだわからないが、たとえば香港に隣接する深圳には、スマートフォンによるQRコード決済サービスを提供するテンセント、スマートフォンメーカーのファーウェイなど中国を代表するIT企業が集積している。「中国のシリコンバレー」とも呼ばれる深圳をはじめ、中国本土の各地からITユニコーン企業が香港のバーチャルバンクライセンスを取得して、市場参入する可能性が噂されている。

シンガポールと共同構築する「GTCN」のインパクト

このように香港域外のプレーヤーが参入すれば、世界中の最新テクノロジーや、それを応用した革新的なサービスが集まり、国際金融センターとしての香港の地位はますます強固になる。それを狙って、HKMAはフィンテックの発展にかかわる中国本土や海外とのコラボレーション強化を明確に打ち出している。

 

たとえば「香港のスマートバンキングを新時代に導く7つのイニシアチブ」のなかには、「域外との連携を強化する」という内容が盛り込まれている。

 

中国本土との間では、すでに深圳市政府金融発展服務弁公室との連携をスタートさせており、海外ではシンガポールと貿易金融のプラットフォームを接続する取り組みを始めていることが2017年9月の時点で明らかにされていた。

 

それから2ヵ月後の2017年11月15日、HKMAはシンガポールの中央銀行に相当するシンガポール通貨金融庁(MAS)と、「グローバル・トレード・コネクティビティ・ネットワーク」(GTCN)と呼ばれる国境を越えた貿易金融プラットフォームを共同構築するプロジェクトについての覚書を正式に交わした。

 

GTCNは分散台帳技術(DLT)をベースとしたプラットフォームであり、共同構築にはHKMAとMASのほか、香港側から香港銀行間決済会社、シンガポール側からはシンガポール全国貿易プラットフォーム・プログラム・オフィスが参画する。2019年中にこれを稼働させ、ゆくゆくは香港―シンガポール間だけでなく、アジアや世界の貿易金融に利用できるようにすることを目指している。

 

そもそも貿易金融は、国際貿易港として発展した歴史を持つ香港にとって非常に重要な金融サービスのひとつだ。

 

伝統的な貿易金融では、商品の引き渡しと代金決済のタイムラグによるリスクを回避するため、貿易の取引相手が資金を有していることを金融機関が保証する「信用状」(L/C)を郵送が電子メールなどでやり取りするのが通例である。しかし、その手続き処理は非常に煩雑で、時間と手間を要することなどが大きな課題であった。

 

そこでデータの透明性・信頼性が高く、スピーディに検索・閲覧可能な分散台帳に置き換えることで、「より速く、より安く、より安全に」(HKMA)貿易決済を処理できるプラットフォームの実現を目指すことにしたのである。

 

今後、貿易決済がGTCN経由で行われるようになれば、貿易業者による二重資金調達などの詐欺行為が困難となり、結果的に与信の可用性が高まって、長期的には資金調達コストも低下すると考えられる。

 

このプロジェクトには、香港とシンガポールの金融当局のほか、中国銀行、東亜銀行、ハンセン銀行、HSBC、スタンダードチャータード銀行など香港の大手銀行も参画。国際監査法人のDeloitte(デロイト)がプロジェクトファシリテーターを務めている。当局が銀行業界を巻き込んでフィンテックの発展を盛り立てようとしていることがうかがえる。

 

また、香港とシンガポールの金融当局が共同プロジェクトを行うというのは、異例のタッグといえよう。その点からも、フィンテックの発展を促して香港の国際金融センターとしての地位を盤石なものにしようとする香港政府とHKMAの本気度がうかがえる。

 

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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