前回は、日本企業がIoTを活用できない「5つのパターン」を紹介しました。今回は、ビジネスの観点から考える「IoT活用」のポイントを見ていきましょう。

バリューチェーン上の「どこに適用するか」を考える

前回述べたの5つの進捗停滞のパターンの共通点は、IoTを非常に「固く理解」しており、「静的」で「局所的」なイメージを根底に持っているように感じられる。

 

結局は、「モノのインターネット」という直訳型理解に大きな要因が潜んでいるように感じられる。「モノのインターネット」という、包括的な概念用語だけでは、現場に紐づけてイメージを膨らませるには、難がある。

 

用語の「理解」を自分たちのビジネス実態に紐づけて理解する観点が欠けたまま、応用を図ろうとしても、難しいのは当然のように思われる。概念把握が適切でないのである。

 

では、どんな観点から、どう理解(定義)すべきなのか? 「IoTとは何か?」を、ビジネスの観点から再定義をすると、以下のように定義すべきと考える。

 

「IoTとは、商品(製品、サービス)または、顧客に商品を届け、活用から廃棄・リサイクルに至るバリューチェーンで発生する情報を、(基本的には)ネットワークを通じて取得・分析し、商品やバリューチェーンにおける価値アップを実現するための手段の体系を指す。」

 

この定義によれば、IoT活用は、「バリューチェーン上のどこに適用するかの考察が必要だ」という気づきが生まれる。また、「情報をネットワークに通じて」とあるが、バリューチェーン上にある「モノ」がどんな状況にあるかの情報を取る、とすれば、「モノ」がどのプロセスにいる場合、どんな状況にあるか? その情報を取って、活かすにはどうすればいいか? という考え方が可能になる。

 

これは、「モノ」を通じた「コト」情報把握に他ならない。

 

まとめると、「IoTによるバリューチェーンの価値アップは、「モノ」の付加価値はどんな状態で、どのプロセスにあり、どんなことをすればプロセスの効率化やアウトプットの価値アップになるか?と考えるべき」と、この定義は語っている。

 

以下の図表は、この考え方を示している。注意すべきは、バリューチェーンは、顧客に届けて終わりではなく、顧客が届けられた商品を活用する部分とそこからIoTにより発信される情報が新たな価値につながる、という点である。

 

[図表]ビジネスとIoT

 

例えば、製造業の組立工程の場合、工程では、必ず「変化」が起こっているが、その「変化」には、お金を貰える「変化」と、貰えない「変化」がある。部品と部品とを組み合わせる「結合」は、「お金を貰える」変化といえるが、単なる部品の位置移動は、「お金を貰えない」変化である。そうすると、例えば、「お金を貰えない」変化部分を極力排除することが、価値アップにつながる。

 

そのためには、モノからどんな情報を取るべきなのか? この場合は、モノとして、部品、組み立て工具、治工具等が考えられる。治工具セットから取り外しまでの時間以外を「お金をもらえない時間」とすれば、セット・取り外しのデータを時間値と合わせて取れば、価値アップにつなげられる。

 

IoTを使えば、作業時間、動作を測定でき、可視化できる。可視化できれば、『お金を貰える時間』のみで構成されるための問題意識が生まれてくる。この着想はIoTの機能理解が前提にあるが、このような考え方は、バリューチェーンと顧客行動のプロセスすべてに適用可能である。

 

単純な例で述べたが、バリューチェーン全体、部分と、視点は、俯瞰的・マクロ的にみる見方から、例で示したようなミクロ的なところまで、階層的に分析することが可能である。つまり、IoT活用領域は、ビジネスの階層別に存在するのである。

現実に動くプロセスに「紐づけて考える」ことが重要

IoTの活用企画は、IoTという用語の特性(概念用語、コンセプトワード)の認識のままでは活用は進まない。大切なことは、IoTのビジネス活用観点から理解し(定義し)、現実に動くプロセスに紐づけて考えることが重要である。

 

こう考えると、もう一つの大きな活用視点がみえてくる。IoTは、モノを通じて、モノかその周辺情報を、インターネットを代表とする通信ネットワークにつなげる機能を持つ。つまり、情報取得が主要機能であり、各プロセスから「情報を取る」と考えなければならない。そして、『取った情報をどう使うか』と考えなければならない。

 

情報は、使わなければ意味がない。情報を使う場合、そのまま流すか、加工するかのいずれかである。では、情報をとったプロセスの前後では、情報を活用して(プロセス)生産性を上げることができないか? と考えていくことで、活用方向性が見え始める。

 

その上で、ようやく、そこにどんなIoT技術が必要か? という、IoTの種類や構成技術の話につながる。IoT活用は、このように考えを巡らせていくことが大切である。念のためにいえば、「プロセス」には階層があることを意識することが、部分最適に陥らないようにするためのポイントとなる。

 

具体論を理解するためには、狭い範囲でみることも意味があるが、「ビジネス」という観点に立ち、IoTとビジネスの関係を俯瞰的にみることが大切である。世界の、IoT活用の先進事例は、このような観点をもっている。次に代表的な取り組みをみてみたい。

本連載は、2018年7月3日刊行の書籍『IoT時代のバリューチェーン革命』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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長谷川 建一

扶桑社

シティバンクグループのニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任し、日本に「プライベートバンク」を広めた第一人者である著者。現在は香港に自ら設立した『Wells Global Asset Management Limited』の最高経営責任者と…

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