増える賃貸住宅需要への供給が追いつかない状況
前回は、どういう仕組みで家賃上昇がキャピタルゲインへつながっていくかを見ていきました。つまり、イノベーション産業が生む乗数効果的な雇用が賃貸住宅(アパート)の需要につながり、家賃上昇によるキャピタルゲインを得やすいという構図が、サンフランシスコ・ベイエリアに存在することを述べました。
あらためて申し上げますが、不動産の価格は需要と供給で決まります。値段の上昇は、賃貸住宅(アパート)に対する強い需要と限られた供給により、引き起こされます。それでは、今回は賃貸住宅(アパート)の供給面から数値の検証を行ってみましょう。
下記図表は、全米主要大都市圏の過去4年間における年ごとの賃貸住宅(アパート)建築許可戸数と雇用増加数・増加率をあらわしています。
[図表1]全米主要大都市圏の賃貸アパート建築許可戸数と雇用増加数・増加率
サンフランシスコ・ベイエリア4大都市圏(サンフランシスコ、サンノゼ、オークランド、サクラメント)には、次のような特徴が読み取れます。
1.サンフランシスコ・ベイエリアでの雇用増加(4年で+92万2000人)は、全米雇用増加数(4年で+1008万2000人)の約9%を占めるが、ここ数年増加傾向にあり、昨年は約15%を占めるに至った。
2.一方、この4年間におけるサンフランシスコ・ベイエリアで新規建築が許可された賃貸住宅(アパート)総戸数は5万1782戸に対して、全米で新規建築が許可された賃貸住宅(アパート)総戸数は139万438戸となっており、サンフランシスコ・ベイエリアでの許認可件数は米国全体の3.7%を占めるに過ぎない。
[補足]2015年第3四半期でのサンフランシスコとサンノゼ大都市圏での戸建て中間価格は920万~107万5000ドルと高額であり、大半の住民は賃貸住宅(アパート)暮らしをする傾向にある。
3.いわゆる過去4年間における需給レシオ(=雇用増加数/新規許可件数)は、サンフランシスコ・ベイエリアが新規許可1戸あたり17.8人に対して、全米平均が7.4人となっている。ちなみに、ロサンゼルスが9.1人、ダラスが5.0人、ニューヨークシティが4.2人となっている。
以上のことからわかるように、カリフォルニア州、特にサンフランシスコ・ベイエリアにおける許認可件数が極めて少なく、増える需要に供給が追い付いていないことがわかります。
一般的にカリフォルニア州、特にサンフランシスコ・ベイエリアでは、開発にかかわる規制が厳しいうえに、開発余地のある土地が限定的となっている状態が何十年も継続しています。
限定的な供給が「家賃価格と稼働率の上昇」を後押し
カリフォルニア州政府は米国連邦政府および他州に比べ、リベラル(革新的)と言われており、特に環境問題に対する規制強化(2020年までに自動車による温室効果ガス排出を1990年レベルまでに削減するという州法を2006年に規定)をいち早く取り入れた州として有名です。
カリフォルニア州政府の厳しい環境規制姿勢による影響は自動車メーカーに対する排気ガス規制強化のみに留まらず、過去から住宅開発の許可件数に大きく影響を与えております。公共交通機関の整備が途上にある加州(いわゆる車社会)では公共交通機関の開発投資を進める一方、開発戸数が増えれば当然保有自動車数も増加するものと考え、BART(東京でいうならメトロ地下鉄網)・Caltrain・バス等の公共交通機関で輸送できる大都市中心部駅周辺のみで新規(および再)開発による新規供給増加は限定されているのが現状です。
2013年6月にサンフランシスコ・ベイエリアの全市町村郡政府で採用した「ベイエリア計画2040」では、加速度的に集積するイノベーション産業群とは裏腹に、2013年から2040年までの公共交通機関投資および土地利用の長期計画を、都市ごと、地域ごとに綿密な規定をし、それに沿った形での開発許可を粛々と実行しています。
[図表2]サンフランシスコ・ベイエリア周辺の鉄道網
つまり、サンフランシスコ・ベイエリアの賃貸住宅(アパート)の新規供給が限定的であるがために、サンフランシスコ・ベイエリアの平均稼働率をこの数年95~97%に高止まりさせ、家賃上昇率が平均約10%という記録的な数字を維持している背景の一端を担っているわけです。