家賃上昇率が高くなるほど「不動産価値」も上がる
前回は、イノベーション産業による賃貸需要面(雇用数の伸び)について、賃貸アパート不動産マーケット、特に家賃水準に与える影響を、南カリフォルニアと比較しながら、過去の具体的な数値を見てみました。
今回は、どういう仕組みで家賃上昇がキャピタルゲインにつながっていくのかを検証していきましょう。
過去3年間の家賃上昇率が約10%となったサンフランシスコ・ベイエリア(サンフランシスコ、サンノゼ、オークランドの3大都市圏)における、典型的なケースをご覧ください(実例1)。比較対象として、今年6%上昇となったロサンゼルス大都市圏も加えます(実例2)。
ここでは説明を簡単にするために、不動産収入に関わる税金は考えないことにします。ちなみに、アメリカの今年の全国平均家賃上昇率は4.9%です。
【実例1】サンフランシスコ・ベイエリア(2012~15年 家賃上昇率:10%)
家賃 100 → 110 (+10%増加)
経費 40 → 42 (+4%増加)
純利益 60 → 68 (+13%増加)・・・減価償却前利益を前提
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
物件価格 1,600 → 1,813 (+13%増加)・・・ネット利回り3.75%不変の想定
1年間のリターン17.6%=(値上がり分213+年間純利益68)/投資額1,600
【実例2】ロサンゼルス大都市圏(2015年 家賃上昇率:6%)
家賃 100 → 106 (+6%増加)
経費 40 → 41 (+3%増加)
純利益 60 → 65 (+8%増加)・・・減価償却前利益を前提
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
物件価格 1,263 → 1,368 (+8%増加)・・・ネット利回り4.75%不変の想定
1年間のリターン13.5%=(値上がり分105+年間純利益65)/投資額1,263
ここでお気づきかと思いますが、家賃上昇率が高いサブマーケットほど、純利益・不動産価値の増加率は高まっています。なぜなら、一般的に経費は人件費や経済成長率に連動する項目が多いためです。
そのほかの要因としては、唯一プロパティマネジメント費用が「家賃×パーセンテージ」と連動しています。米国では経費に占める固定資産税の割合が60~70%程度と大きく、物価上昇率にリンクしているのが現実です。
加えて言えば、そのようなサブマーケットでは、現実的にネット利回り率(俗にいうキャップレート)は圧縮が続いています。サンフランシスコ・ベイエリアのネット利回り率は確実に低下しているのです。
いみじくもトマ・ピケティ教授が『21世紀の資本』(2014年、みすず書房)で、過去300年間のデータから「資本利益率>経済成長率」の方程式を実証ましたが、不動産投資においては、すでに損益の段階で経費分析すればこの方程式が実証されてしまいます。いわゆる「レバレッジ効果」であると言えます。
現金投資なら家賃上昇でキャピタルゲインを得やすい
失われた20年を経験している日本のほとんどのサブマーケットでは、家賃の伸びが期待できません。経費の伸びもゼロではありますが、純利益の伸びも期待できません(実例3)。
【実例3】日本のサブマーケット(家賃上昇率:0%)
家賃 100 → 100 (+0%増加)
経費 40 → 40 (+ 0%増加)
純利益 0 → 60 (+ 0%増加)・・・減価償却前利益を前提
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
物件価格 1,200 → 1,200 (+0%増加)・・・ネット利回り5.0%不変の想定
1年間のリターン5.0%=(値上がり分0+年間純利益60)/投資額1,200
この場合、金融緩和期待で起こるであろうネット利回り率の圧縮と金融機関からの借入レバレッジでキャピタルゲインを極大化するか、もしくは、何らかの理由で低位にある案件に付加価値をつける「バリュー投資」の道を探るしかありません。
高い借入比率を前提とした投資家は、借入コストを賄うために高いネット利回りを求める傾向がありますが(高いネット利回りには、あまり家賃が上昇しないといったバックグランドがあり、リスク見合いであることを忘れないようにしましょう)、オール現金での投資を想定した場合、高い家賃上昇によって、安全かつ効率良くキャピタルゲインを得やすくなることは、上記の実例からも証明されるといえます。