前回は、マーケティングツールを活用した「競合分析」の具体的な方法を取り上げました。今回は、ブランドの創出に不可欠となる、実務的なノウハウとイメージ戦略について見ていきます。

商品開発の知識、コストの概念は必須事項

ブランドのイメージが固まり実際に商品化を進めていく段階では、生産等の商品開発にかかわる実務的な知識やノウハウが必要となります。

 

例えば、製品は1個からでも作ることは可能ですが、ほとんどの場合、それでは生産コストが割高になり利益を得ることが難しくなります。

 

そこで、「商品を開発し利益を得るためには、最低でもどれだけのロットを生産しなければならないのか」という経済ロットの概念を身に付けておかなければなりません。また、コストは配送手段等によっても変わってくるため、コスト算出の前提として流通等に関する知識もおさえておかなければなりません。

 

さらに化粧品であれば化粧箱をつけるのか否かも考えなければなりません。パッケージに関しても、店頭で販売する場合には中身が分かるようなものにしなければならないでしょう。これらの課題を解決するためには、当然、化粧箱やパッケージに関する知識も必要になります。

 

このように、一つのブランドをつくるだけでも処理するべきこと、考えなければならないことが無数に存在し、その一つ一つに的確に対応するためには様々な「商品開発の知識」が求められることになるのです。

 

さらに、一般的な商品開発の知識のほかに、化学的な知識などの「学術的知識」が必要となることもあります。

 

ことに美容品や健康食品などを開発する場合には化学的な成分に関する知識が必須となります。例えば、「HIMITU(ヒミツ)」については「唇のふっくら感を出すためにはどのような成分が最も適しているのか」を医師などの専門家にも相談しながら研究を重ねました。その結果、唇に弾力を与える成分、唇にハリを与える成分として以下のようなものが用いられています。

 

(唇に弾力を与える成分)

ヘキサペプチド−48HCI、シンコル(トリフルオロアセチルトリペプチド−2)、シンエイク(ジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミド)、プロジェリン(パルミトイルトリペプチド−5)

 

(唇にハリを与える成分)

サクシノイルアテロコラーゲン、ヒアルロン酸Na、3種のセラミド(セラミドNG、セラミドNP、セラミドAP)

 

また、しぼみかけた唇に刺激を与えることを目的に、製品にはトウガラシエキスやセイヨウハッカ油も含まれていますし、保湿成分としてピーナッツ油、ヤグルマギク花エキス、ヒマシ油など各種の植物由来成分も使われています。

 

一つの商品だけでもこれだけの多種多様な成分が使われており、開発スタッフはそれらに関する知識を的確におさえておかなければならないわけです。

 

 

個人でブランドを立ち上げる場合には学術的知識を全て独力でカバーすることは難しいでしょうから、外部にアドバイザーをもつことを検討してみてもよいかもしれません。ちなみに、私の会社では学術的な知識を備えた社員がおりますが、一方で外部の専門家にも顧問を依頼しており必要に応じてアドバイスを受けています。

委託先製造工場の得意分野・専門分野も把握を

それから、商品の生産は基本的に外部の工場に委託することになるので委託先製造工場に関する知識も重要です。

 

工場はそれぞれ、「○○のジャンルならここが得意」「○○の成分はここでしか取り扱えない」などというように特徴があります。そのような特徴に応じて、開発するブランドのジャンル・成分ごとに工場を変えなければならないこともあります。

 

 

ちなみに、先に触れた家庭用毛玉予防スプレー「undeg(アンデグ)」はクリーニング業者向けの洗剤を作っているメーカーに企画書をもち込んで開発・生産を依頼しました。摩擦試験など様々なテストを工場で何度も何度も繰り返した末にようやく商品化することに成功したものです。

 

また、想定以上の注文を受け商品の供給が間に合わないような状況となった場合には増産を検討することになりますが、そのようなケースに対応できるかどうかも確認しておかなければなりません。工場はどこも事前の生産計画にしたがって動いています。いきなり「予想外にヒットしているから、どんどん作ってほしい」と頼んでも、計画外の生産に対応できるところはあまり多くないでしょう。

「ブランドのストーリー」を的確なデザインで表現

ブランドのイメージが固まった時点で、パッケージ、ロゴ等のグラフィック制作とウェブサイトの設計に取り組むことになります。

 

この段階では、ブランドのストーリーを的確に表現したデザイン、ビジュアルイメージをつくり上げることが求められます。

 

例えば「HIMITU(ヒミツ)」の場合には、〝秘密兵器〟というストーリーコンセプトから、ポーチやバッグに忍ばせているだけでテンションを上げられる(自分を瞬時に変えられるスペシャルな道具を隠し持っている気持ちになれる)よう、重厚感のあるパッケージにしました。

 

[図表]「HIMITU(ヒミツ)」のパッケージ写真

 

また、商品ロゴは、漢字で表すときには「秘蜜」と表記しています。モノ自体の質感がとろみがあること、それから「リップを塗る瞬間は特別な瞬間」という前述のニュアンスを「蜜」の字に込めているわけです。それをより強調するために、商品の案内には「女性の世界で頑張るあなたにひとさしの蜜を」というコピーを添えています。

 

それから、ミステリアスなイメージを醸し出すために、パッケージ等では「HI・MI・TU」と分かち書きにしています。

 

さらに、パッケージデザインを決める際には、流通販路や競合商品の存在なども考慮に入れておかなければなりません。流通販路に関しては、ECだけではなく、リアル店舗でも販売するのであれば、店頭に置いたときの見映えを意識したパッケージデザインにすることが必要となるでしょう。

 

 

また、競合商品がある場合には、「全く異なるデザインにして違いを際立たせる」という選択肢もありますが、他方で「あえてパッケージを似せることによって、商品を手に取ってもらいやすくする」という戦略も考えられます。

ニッチブランド革命 デジタルマーケティング時代のヒットの法則

ニッチブランド革命 デジタルマーケティング時代のヒットの法則

山口 恵市

幻冬舎メディアコンサルティング

好きなものを「つくって広めたい」が現実に! これからの市場を支配するのは、小さなニーズを狙って届けるニッチブランド!? ニッチブランドの企画からプロモーション、流通まで──新しいヒットの仕組みを徹底解説! ●なぜ…

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