ブランドストーリーを伝える「3つ」のポイント
前回の続きです。
続いて、ニッチブランド創出のセカンドステップとなる「伝える」のプロセスについてみていきましょう。
ここでは、ブランドのストーリーをどのように拡散し、購入につなげていくかが重要になります。そのためのポイントとなるのは、①「どう対面販売と同じように伝えるか」、②「いかに“今”買ってもらうか」、③「誰が伝えるか」という3つの点です。
まずは、①から見ていくと、そもそも、接客・プロモーションの基本は、ネットもリアル店舗も変わりありません。どちらにおいても、商品の価値、訴求ポイントを肌感覚で理解してもらうこと、実感してもらうことが何よりも大切になります。
例えば、前述した「HIMITU(ヒミツ)」であれば、「アンチエイジング」が訴求ポイントになります。そこで「もし唇の縦じわがなかったら」――をイメージできるビフォー、アフターの写真をウェブ上に並べます。すると「あっ、本当だ、縦じわがない方が若く見える!」などと、「HIMITU(ヒミツ)」を使った後に自分がどう変わるのかを実感できるはずです。その実感こそが、購入への第一歩につながるのです。
そして、②「いかに“今”買ってもらうか」を実現するために、商品に関心をもった相手に購入を促す一押しを様々なかたちで工夫します。例をあげると「今なら、1本の価格で2本手に入ります!」などというキャンペーンを行うのも一つの手でしょう。特に、「HIMITU(ヒミツ)」のように複数のカラーを用意しているような商品の場合には有効な手段になります。どの色にしようかと迷っているような人は「それなら、赤とベージュを試してみようか」などと、より購入に前向きな気持ちを抱くはずです。
③「誰が伝えるか」に関しては、ブランドのつくり手だけではなく、第三者が伝える状況が生まれることが望ましいといえます。具体的には、広告だけではなく、SNSの口コミ等を通じて、ブランドの情報がそのストーリーとともに次々と広がっていくことが理想的です。
顧客の流入経路に応じた「伝え方」の工夫が必要
また、「伝える」手段を考える際には、「流入経路」つまりはどのような経路からECサイトにアクセスしてきたのかへの配慮も求められることになります。具体的に説明すると、まず第一にYahoo!やGoogleなどの検索エンジンでブランドの関連キーワードを検索した結果、ECサイトに流入してくる人が考えられます。あるいは、SNSで評判になっていたからという理由で、直接、商品名を検索してたどり着く人もいるでしょう。
それから、リスティング広告やECモール内のキャンペーン広告をクリックして、アクセスしてくる人達もいるはずです。
販売する商品の特徴に応じて、これらの流入経路のうちどれが最も多くの割合を占めるのかは変わってきます。もし関連キーワードでの検索があまり期待できないような商品であれば、広告を使った商品名の露出に力を入れるなど、伝え方の戦略をケースバイケースで柔軟に考えていく姿勢が必要になります。
また、ECで直営販売を行っているだけでなく、リアルの販売店に商品を卸しているような場合には、ウェブ上でのプロモーション手段として安売りのキャンペーンはしにくくなります。例えば販売店では4000円で売られているような商品を、ECでその半額で売るようなことをすれば、販売店から「そんなに安い値段で売られたら、うちの店では買ってもらえなくなる!」などとクレームが寄せられるでしょう。
このように、商品を販売しているのがECだけか否かによっても、「伝える」の手段・態様等が影響を受け得ることは念頭に置いておくべきかもしれません。
検索エンジンを利用し、成約確度を高めるワードを探る
流入経路の一つとしてキーワード検索について触れました。キーワードを検索する人達をECサイトに導くためには、SEO並びにSEMの対策が必要になります。
SEOとは、「Search Engine Optimization(検索エンジン最適化)」の略称で、特定のキーワードで検索したときに、検索結果一覧で、自身のウェブサイトの表示を上位にするための手法です。通常は、大手検索エンジンのGoogleとYahoo!で検索されたときに、自己のサイトが上位にくるよう対策を行います。
一方、SEMとは、「Search Engine Marketing(検索エンジンマーケティング)」の略称です。検索エンジン利用ユーザーに対して行うマーケティング全般を意味し、SEOもSEMの一種になります。
SEMには様々な方法がありますが、私の会社では成約率を高めるうえでSEO対策とリスティング広告のどちらを行うのが効果的かを考えながら進めています。
「HIMITU(ヒミツ)」を例にあげると、まず最も関連性の強い「リップ」でリスティング広告を行ったとしても、キーワードの幅が広すぎるので成約には結びつかないはずです。一方、SEOで上位に上げることも、つまりは「リップ」で検索されたときに「HIMITU(ヒミツ)」が上に表示されるようにすることも簡単ではありません。
そこで、“では、「リップ」にプラスして「人気」で検索したらどうなるか”と考えてみます。実際に、この複合ワードで検索してみたところ、ヒット件数は大幅に少ない結果になりました。これなら、SEO対策を行ってみる価値がありそうです。
また、試しに「リッププランパー」で検索してみると、「リップ」と「人気」で組み合わせたときよりもさらにヒット件数が減りました。この結果からは、SEO対策はもちろん、リスティング広告を行ってみても効果を得られる可能性があります。
このように、キーワードをあれこれ試してみながら、成約に結びつく最適なワードを見つけ出していくのがSEMの大きなポイントになります。
なお、こうした試行錯誤を繰り返す中で、実は競合商品の名前が最も高い成約率を得られるワードであることが判明する場合もあります。そのような場合には、競合商品を検索したときに自社商品がリスティング広告で表示されるような工夫を試みることになるでしょう。
ユーザにもSNSで情報を拡散してもらう
前述のようにニッチブランドのプロモーション戦略においてはSNSを活用することが非常に重要になります。具体的にはSNSを通じてブランドの情報を発信すると同時に、商品のユーザーにもSNSによって情報を拡散してもらうことが大切になります。
その際、SNSの運用を消費者のタイプに応じて2段階に分けて展開すると、プロモーション活動をスムーズに進めることが可能となるでしょう。
まずファーストステップ(第一段階)では「イノベーター」「アーリーアダプター」にターゲットを設定します。イノベーターとは、冒険的精神に富んでおり新しい商品・サービスを積極的に採用する人達です。一方、アーリーアダプターは、革新的商品やサービスなどを比較的早い段階で採用・受容する人々です。
こうした方々は、多くの人にはあまり知られていない、いいことやいいものを教えてあげたいという思いが強いので、ニッチブランドへの関心も高く、まだブランドを知らない人達に積極的に広めてくれることがあります。
例えばSNSを通じて、製造工程に関する苦労話などを発信したり、質疑応答などのコミュニケーションを行ったりと、商品の情報をこまめに提供し、ブランドのことを理解し、共感してもらうことで、より積極的に多くの人に情報を発信してもらうこともできるのです。
続いてセカンドステップ(第二段階)では、ターゲットを「マジョリティ」に定めます。マジョリティとは、ごく一般的な大勢の消費者のことです。このタイプに属している人達は、流行っているものを後から取り入れる傾向が強く、SNSでも「流行に乗っている」ことをアピールすることを好みます。そこで、マジョリティを取り込むためには、SNSによるプロモーションだけではなく、広告活動も積極的に行って「流行っている感」を後押しすることが望ましいかもしれません。