スマホの普及が、ECの「利便性向上・市場拡大」を促進
前回のようなECの発展が促された大きな要因としては、スマートフォン(スマホ)の普及もあげられます。
日本でスマホの利用が広がるきっかけとなったのは、2008年のiPhone(アイフォーン)発売でした。翌2009年には、ドコモからAndroid(アンドロイド)スマートフォンも発売されています。以降、この2機種がライバルとして機能向上を競い合う中で、スマホ市場は年々成長していきました。総務省がまとめた「平成29年版 情報通信白書」ではスマートフォンの保有状況の推移が以下のように示されています。
<スマートフォン個人保有率の推移>
2013年・・・39.1%
2014年・・・44.7%
2015年・・・53.1%
2016年・・・56.8%
[図表1]世代別の保有状況
このようにスマホの普及率は現在、50%を超えており、単純にみて日本人の半分以上が何かしらの機種を保有していることになります。しかも若い世代だけでなく、60歳以上の高齢者でも利用者が増え続けています。
スマホがあれば、「そういえば、○○が買いたい」などと思ったときにいつでもどこでもすぐにネットでモノを購入することができます。スマホの普及がECの利便性を向上させ、EC市場の拡大を、ひいてはニッチブランド市場の拡大を大きく促す結果をもたらしていることは間違いないでしょう。
マスメディアの代替的役割を果たすこともある「SNS」
ECとスマホの他に、ニッチブランドが人々に浸透するうえで大きな役割を果たしているものとして、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の存在も見逃すことはできません。
SNSが誕生したのは2000年代の初頭といわれています。それ以前のインターネット上のコミュニケーション手段としては、相手を明示的に指定してメッセージを送る電子メールや、共通の話題・関心をもった人達が集まって交流する掲示板(BBS)が中心でした。SNSは、参加者が相互につながりあったネットワーク上で情報のやり取りを行う仕組みであり、双方向のやり取りを即時にかつ簡単に行える点が大きな特徴といえます。
アメリカの市場調査会社eマーケターによると、2017年の時点でSNSの利用者は全世界で24億6000万人に達し、2021年には30億2000万人に及ぶと推測されています。また、日本でもSNSを利用する人の数は増え続けています。図表2は、代表的なSNSサービスの利用率の推移を示したものです。
[図表2]代表的SNSの利用率の推移(全体)
LINE(ライン)、Facebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)等のいずれかを利用している人の割合をみると、全体では、2012年の41.4%から、2016年には71.2%にまで上昇しています。わずか4年間で利用者の数が実に30%近くも増えているのです。
年代別にみると、20代の利用者が圧倒的に多く、2016年の時点で97.7%が何らかのサービスを利用しています(図表3参照)。また、40代、50代は2014年から2015年にかけて利用する人の割合が上昇し、2016年には利用率がそれぞれ約80%、約60%に達しています。
[図表3]代表的SNSの利用率の推移(年代別)
このようなSNSの普及・発展の結果として、誰もが思い思いに、しかも気軽に情報を発信することが可能となりました。特にTwitterではプライベートな情報はもちろん、事件や事故など社会的に関心の高いテーマを取り扱った公的な情報が伝えられることも少なくなく、ときにマスメディアの代替的な役割を果たしているようなケースもみられます。
そして、そうしたSNSによって発信された情報の数々が多くの人達によって積極的に活用されている現状もあります。野村総合研究所の調査(「生活者年末ネット調査 2016年」)によれば、情報収集や調べ物の際に使用する媒体のうち、トップにあげられているのは「検索エンジン」ですが、10代や20代の若年層ではSNSがテレビを上回っていました。
ニッチブランドはSNSによって周知されることも多い
「なぜ、SNSで情報検索を行うのか」――その理由としては、以下のような回答があげられています。
<SNSによる情報検索理由(複数回答)>
最新の情報をいち早く入手したいから・・・49.6%
実際の利用者の生の声を直接知りたいから・・・31.7%
災害、事件、電車遅延などの状況をリアルタイムで知りたいから・・・28.5%
話題のネタなど、面白い情報を見つけることができるから・・・26.0%
検索エンジンではSEO対策され、操作された検索結果しか見られないから・・・23.8%
撮影された写真や動画が多く、感覚的に理解しやすいから・・・19.2%
知りたい情報を、同好会や専門家の集まりなどのコミュニティごとに検索できるから・・・9.5%
家族・友人・知人など周りの人が使っているから・・・9.5%
上の結果からは、SNSに対して情報の即時性や加工されていない〝生の声〟を期待している人が多いことがうかがえます。そして、利用者のリアルな意見・評価を知ることができるSNSのこのような特性は消費者の購買行動にも大きな影響を及ぼしています。
インフルエンサーのマッチングプラットフォームを開発・提供している株式会社マージェリックは2017年12月に「Instagram(インスタグラム)の投稿に対する購買意欲」に関するアンケート調査を実施しました。
それによると、「Instagramの投稿がきっかけとなり、商品を購入したり、検索をしたりなどの行動を起こしたことがあるか」という質問に対しては、「商品を購入したことがある」と回答した人が26.4%、「ネットで商品を検索したことがある」と回答した人が30.6%、「店頭に実物を見に行ったことがある」と回答した人は13.4%と、Instagramの投稿がきっかけとなって商品を購入したり、検索をするなどの行動を起こしたことのある人が多くいることがわかります。
このように、SNSの投稿をもとに「モノを買うか買わないかを決める人」「商品を選ぶ人」たちが年々数を増しているのです。
ニッチブランドは、SNSの口コミをきっかけにその存在や中身を知られることが少なくありません。先に取り上げた『BOTANIST』(ボタニスト)のケースも、SNSでの評判がヒットに結びついた一つの典型例です。消費者がSNSを商品選びの手段として利用する傾向が強まっていることは、ニッチブランドのさらなる普及・発展を促す大きな追い風となるに違いありません。