マス広告を使ったプロモーション戦略が人々に響きにくくなった一方、顧客のニッチなニーズに応える「ニッチブランド」が成長を続けています。本連載では、新しいブランドビジネス「ニッチブランド」の仕組みやプロモーションの手法などを紹介していきます。

顧客の心を掴み、活況を呈する「ニッチブランド」

本書のタイトルに使われている「ニッチブランド」という言葉には馴染みがあまりないという人が多いかもしれません。ニッチブランドとは、一般に「特定の市場における少ないニーズに応えることで消費者から強い支持を得ているブランド」などと定義されています。


分かりやすくいえば、ルイ・ヴィトンのバックやシャネルの香水のように世間一般に広く知られているメジャーなブランドではなく、ごく少数の人の「こんな○○があったらいいのに・・・」「○○なモノが製品化されたら、是非ほしい!」という思いに応えて生み出された商品ということになります。

 

マス広告を背景とした従来型のブランドが消費者の支持を得にくくなっているのとは逆に、ニッチブランドは年々、小売市場等で存在感を強めています。アパレル、健康食品、美容品などのように需要が細分化する傾向が強いジャンルを中心に、ニッチなニーズに応じた多種多様な商品が続々と誕生し、その中には、多くの顧客の心をつかみ大手ブランドと並ぶほどの売上を記録しているようなものも現れています。

 

 

たとえば、ベンチャーメーカー、I-ne(アイエヌイー。2018年1月に社名の読み方をイーネからアイエヌイーに変更)によって2015年に立ち上げられた自然派志向のヘアケアブランド「BOTANIST(ボタニスト)」は、テレビCMを行っていないにもかかわらず、2017年の段階でブランド全体の累計出荷本数が2500万本を超えており、大手ECモールの楽天市場が毎年公表している「楽天ベストコスメ」の総合ランキングでは3年連続で1位を獲得しました。

 

「使われる成分のうち90%以上が植物由来成分とクリーンな水」「海外で認められた」などといったブランドのストーリーやリアリティ番組の出演者たちなどがSNSにボタニストの写真を投稿したことなどが話題や共感を呼び、ネットでの口コミ・評判等を通じて売上を伸ばしてきたといわれています。

 

また、私の会社やグループ会社でもこれまで数多くのニッチブランドを世に送り出してきました。その中にはヒット商品となったものも少なからずあります。

 

一例を示すと2017年6月に販売を開始したリッププランパー、「HIMITU(ヒミツ)」は、唇のエイジングケア美容液という日本ではそれまでほとんど知られていなかった商品ジャンルでありながら、楽天総合ランキングで9冠を達成するなど大きな売上を記録しています。

 

このようにニッチブランドのマーケットは着実に規模を拡大しながら、力強く成長し続けているところです。本連載では、ニッチブランドが活況を呈しているその背景や理由について詳しくみていきましょう。

ニッチブランドの成長を後押しし、拡大を続けるEC市場

ニッチブランド台頭の背景として、まず第一にあげられるのはECの普及・発展です。

 

インターネット上でモノやサービスの売買を行うEC(エレクトリック・コマース)は、インターネットの普及・発展とともに成長を遂げてきました。その歴史を大まかに振り返ると、まず1997年5月に日本ではじめての本格的なインターネットショッピングモール「楽天市場」が開設されています。楽天のオフィシャルサイトでは創業時の思いが次のように説明されています。

 

「『インターネットで人はモノを買わない』と言われた時代に、地方の小さな商店でも、コンピューターに強くなくても、誰でも簡単に店を開けるようにしたいというコンセプトで、インターネット・ショッピングモール『楽天市場』を開設。従業員6人、サーバー1台、13店舗でスタート」

 

このようにわずか1台のサーバーコンピューターでスタートした楽天市場は、以後、着実に店舗数を増やしていきました。翌1998年1月には91店舗、1999年1月には400店舗、2000年1月には約2000店舗と、3年間で100倍以上に達しています。

 

一方、1999年には「Yahoo! ショッピング」が、2000年には「Amazon.co.jp」がサービスを開始する(2001年には「Amazonマーケットプレイス」をスタート)など、世紀の変わり目に大型ECサイトが続々と誕生し、日本は本格的な〝EC時代〟に突入していきました。

 

このような民間の動きと並行して、国もECの普及・発展を後押しする政策を進めてきました。2001年には電子消費者契約法を、2002年には特定電子メール法(迷惑メール防止法)を施行するなどECを巡る法的枠組みを積極的に整備してきたのです。

 

こうした官民をあげての取り組みの結果、EC市場は右肩上がりに成長を続け、2017年の段階でEC市場規模は16兆5054億円にまで及んでいます(図表1)。インターネット利用者の一人あたりの利用額に換算すると年間平均で約16万円になりますが、それでもEC化率はまだ5.79%に過ぎず、マーケットがこれからさらに拡大していくことはまず間違いありません。

 

[図表1]BtoC-ECの市場規模およびEC化率の経年推移

出典:経済産業省「平成29年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書」
出典:経済産業省「平成29年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書」

 

ニッチブランドは限られた顧客を対象とするため、いきなりリアル店舗での開業から始めるのは合理的ではありません。想定される少ない人数の顧客が、ブランドの知名度が低い段階でわざわざ店に足を運ぶことは期待できないでしょう。

 

 

そこで、まずはECからスタートすることが現実的な選択肢となります。かつては、ECでニッチな商品を売るための集客手段は限られていました。例えば、販売する商品に関心を持つ可能性のある人達が集まる掲示板で「○○という商品を扱うショップを始めました。興味がある人は是非アクセスしてみてください」などと宣伝する程度の方法しかなかったのです。しかし、後ほど詳しく解説するように、今はSNSの利用によりニッチブランドの情報を拡散し、ニーズのある人に広く情報を届けることが可能です。そのため、ECを使ってニッチブランドを販売することが容易になっています。

 

このようにニッチブランドの主戦場はECとなるため、EC市場が拡大することはそのままニッチブランド市場の拡大へとつながっていくのです。

ニッチブランド革命 デジタルマーケティング時代のヒットの法則

ニッチブランド革命 デジタルマーケティング時代のヒットの法則

山口 恵市

幻冬舎メディアコンサルティング

好きなものを「つくって広めたい」が現実に! これからの市場を支配するのは、小さなニーズを狙って届けるニッチブランド!? ニッチブランドの企画からプロモーション、流通まで──新しいヒットの仕組みを徹底解説! ●なぜ…

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