仮想通貨取引にかかる消費税を撤廃し、改正資金決済法(通称・仮想通貨法)をいち早く施行するなど、仮想通貨に関する法整備は世界的に見ても進んでいた日本。しかし現在、たとえば国内居住者向けのICOを実質禁止するなど状況は一変している。日本の仮想通貨取引をめぐる環境はどうなるのか? そして税制の整備は進むのか? 仮想通貨と国際税務の双方に詳しい柳澤賢仁氏と、「ミス・ビットコイン」こと藤本真衣氏の対談をお届けする。第3回のテーマは「マルタで設立するファンドについて」。

シンガポールは政府と金融機関で方針に相違が…?

柳澤 僕の専門が税務なので、仮想通貨の税制についての話をしたいと思います。先ほど名前のあがった秋山さんが関わっているCEDEXは、その点、非常に上手に税金対策をしているんですよね。

 

藤本 4月にICOが終わりましたよね。ただ、金融庁は日本国内居住者向けのICOは禁止しているので、ロンドン証券取引所の上場企業が設立しているCEDEXは、各国の規制を順守していて、実際に、とても厳重に管理して日本人からの資金を受け付けていなかったので、日本人で買えた人はいないそうです。

 

柳澤 その点は非常に残念ですよね。日本は世界に先駆けて、昨年7月に仮想通貨取引にかかる消費税を非課税にした国です。この決断はものすごいインパクトを持っていました。だから、世界中から日本人向けにICOプロジェクトを紹介したいというオファーが相次いだと思うんです。なぜなら、消費税や付加価値税が20%かかるような国だと、ICOで100億円調達しても20億円の税金が課せられる可能性がある。

 

その点、CEDEXは発行体を英領ジブラルタルに置いているじゃないですか。ジブラルタルは消費税がないようなので、同国の会社がトークンを発行して、租税回避してると思うんです。

 

「シンガポール、スイス、マルタで検討していました」
「シンガポール、スイス、マルタで検討していました」(藤本)

藤本 シンガポールに発行体を置く会社も多いですよね。

 

柳澤 シンガポールは7%の消費税がかかります。政府は仮想通貨関連企業に対してウェルカムと聞いてるんですけど、金融機関が仮想通貨関連企業の口座開設を拒否するなど、政府と相反する方針を取ってきているようです。

 

藤本 私もシンガポール、スイス、マルタのいずれかに会社を作ろうと検討していました。そのなかでシンガポールはキャピタルゲイン税がかからないので、ICOには向いていると聞きましたけど?

 

柳澤 キャピタルゲイン税は投資収益にかかる税金なので、本業のある人がシンガポールに移住して、副業として仮想通貨を利確しても税金がかからないようですね。でも、ICOの発行体には調達額に応じて消費税がかかるんです。

マルタの法人税は35%だが、還付金で戻る制度がある

藤本 確かに投資家の方々にはシンガポールがいいよ、って言われました。ただ、最終的にマルタを選びましたけど。

 

柳澤 それは、どんな会社なんですか?

 

藤本 ブロックチェーン関連企業やICOプロジェクトに投資するファンドを立ち上げようと考えているんです。元大手証券会社のオーストリア人、ファミリーファンドを運用してるイタリア人、それと日本人のパートナーは『ブロックチェーンの衝撃』という本を書かれていて、7月にFacebook Japanの顧問にも就任した馬渕邦美さんと4人で立ち上げる予定です。投資の意思決定を行うゼネラル・パートナー(GP)をマルタ法人に置いて、日本の機関投資家をリミテッド・パートナー(LP=出資者)にして運用してみようと。

 

「マルタの法人税は実質5%になるんですよ」(柳澤)
「マルタの法人税は実質5%になるらしいよ」(柳澤)

柳澤 マルタは非常に魅力的な国ですよね。表向きの法人税は35%と日本と同じくらいなんですけど、実際には還付金制度が充実しているので実効税率で5%程度に抑えることができるようです。おまけに国を挙げて、仮想通貨に前向きな姿勢。4月には仮想金融資産法案、デジタル・イノベーション庁法案、技術調整&サービス法案と3つの法案が承認されたようです。

 

ICOを実施する企業の責任を明確にしましたが、日本のようにICOを縛るものではなさそう。マルタ証券取引所はブロックチェーン関連のスタートアップ企業に対してオフィスや通信サービス、経理サービスなどを提供する支援プログラムも用意しているらしいですし、今後、どんどんマルタに面白い企業が集まっていくのではないかと思います。

 

数ヶ月後にはガラッと情勢が変わるクリプトの世界だから、どうなるかは分からないところもありますけど。

 

藤本 世界最大の取引所「Binance(バイナンス)」も香港からマルタに拠点を移しましたよね。それに続いて、「OKex(オーケーエックス)」も香港から移転してます。バイナンスはマルタ証券取引所と提携して、スタートアップ支援プログラムにも協力している。

ファンド名「MBB」の由来とは?

柳澤 Binance Labs(バイナンスラボ)は1,000億円ファンドをつくる計画ですよね。

 

藤本 Binance Labsとはお付き合いはありますけど、そこまでの話をしているかどうか含めて何も言えません(笑)。言えるのは、ファンド名が「MBB」っていうことぐらい。「ミス(M)ビットコイン(B)バンド(B)」という意味です(笑)。日本以上に海外でミス・ビットコインの名前が浸透してきているようなので。楽しくやりたいから「ファンド」じゃなくて、「バンド」にしました(笑)。

「ミスビットコイン(M)」
「ミス(Miss)」
「の(N)」
「ビットコイン(Bitcoin)」
「バンド(B)」
「バンド(Band)」
「…という意味です(笑)」
「…という意味です(笑)」

柳澤 (笑)。確かに、藤本さんのところには最新の情報が集まってきますもんね。それをちゃんとしたビジネスにするうえで、ファンドをつくるのは非常に合理的ですよね。

 

藤本 いいか悪いかは別にして、30秒で募集枠が埋まって40億円近く調達したBAT(Basic Attention Token)は以前から知っていましたし、韓国のICONはICO前に連絡が来て、「これは絶対面白い!」と思ったので韓国までプロジェクト関係者に会いに行きました。私は買えなかったんですけど、周りで買った人は30倍以上に値上がりした一番高いときに売り抜けた人もいます。

 

それこそバイナンスのCZ(ジャオ・チャポンCEO)が取引所トークンのBNB(バイナンス・コイン)を作るときも、CZに「応援するよ」っていうやり取りはしてたんですけど、買えなかったんですよね…(苦笑)。

 

柳澤 今年中にドカンと儲かるようになるといいですね! (顧問税理士が必要だったら言ってください!)

 

藤本 そうですね!! これからは投資周りに強いチームと動けるので、ちゃんとそちらにも目を向けていきます! ただ、それ以上に初めて外部の人と一緒にビジネスをやることが楽しみです。これまで多くのプロジェクトを見てきて、それなりに真面目にやってきたので“いい層のコミュニティ”との関係を深めてきた自負もあります。それを生かせる可能性のあるビジネスなので。単に、マルタという国が綺麗で魅力的、という理由もありますが(笑)。

 

(つづく)

 

藤本真衣

グラコネCEO/「KIZUNA」ファウンダー/withB adviser/GMOインターネット adviser / LayerX adviser/BRD advisor /MediBloc advisor / Zeex ambassador

神戸生まれ神戸育ち。大学在学中に家庭教師派遣の営業に夢中になり、大学中退。19歳からフリーランスとして活動開始。その家庭教師派遣の営業では日本トップの成績を納める。上京した後には、子供向けWebコンテンツ「キッズ時計」の立ち上げや、全国の「いいね!」を集める「いいね!JAPAN」などのコンテンツプロデュースに関わる。そのなかでビットコインに出会い、2014年にグラコネを設立後はブロックチェーンに関連するイベントプロデュースやマッチングビジネスを数多く手がけるようになる。「ミスビットコイン」の愛称で広く知られている。2011年から暗号通貨業界に携わり、印象的な経歴で業界の発展に寄与している。

 

柳澤賢仁

柳澤国際税務会計事務所代表/柳澤総合研究所代表/税理士

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了後、アーサーアンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て2004年に独立。独立後に支援したスタートアップのなかからすでに2社がIPO。起業家の海外支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&A、海外税務のアドバイザリー業務など幅広く手掛ける。主な著書に『お金持ち入門』(共著)、『資金繰らない経営』などがある。

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