今回は、自治体主導の「シュタットベルケ」が日本にもたらす利益について見ていきます。※本連載は、東京工業大学特命教授・名誉教授、先進エネルギー国際研究センター長である柏木孝夫氏の著書『超スマートエネルギー社会5.0』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、ドイツのエネルギー戦略を参考にした、政府主導の「日本版シュタットベルケ」について説明します。

シュタットベルケが「地域活性化」につながる

自治体主導のシュタットベルケが電力の売買を行うことで、地域のさまざまな企業がコンソーシアムを組んで投資するようになる。つまり、民間の投資が喚起されるのである。地域内の資金循環率が高いほど、地域が活性化しているといえる。

 

ここでのポイントは、ぜいたく品ではなく、エネルギーという民間必需品を扱ったという点である。ぜいたく品の売買では、地域活性化につながりにくい。

 

ドイツでは、自由化と同時に、8社あった大手電力会社の合理化が進み4社になった。

 

例えば、電力最大手のイーオンで電力を買った場合、1ユーロあたり11セント程度、つまり資金循環率は10%ほどしか地域に還元されない。大規模集中型の大手電力会社から電気を買っても、その地域とは全然違う地域で発電した電力を使うわけだから、当然循環率は悪くなるのだ。ところが、シュタットベルケから1ユーロの電力を買うと、資金循環率は32%ほどになる。

 

市が持っている市民風車や市民ソーラーの発電電力を売買する、あるいは市民が勤めている会社が事業に関係することで、地域内の資金循環率が上がるのである。

 

電力の自由化をきっかけにキャッシュの流れが生まれれば、その資金を使ってCEMS(地域エネルギー管理システム)を入れることもできる。大規模電源にあまり影響を及ぼさない形で、デマンドサイドの中に自然エネルギーをうまく取り込めるようになる。

 

さらにEVと住宅の間で電気を融通し合うビークル・トゥー・ホームシステム(V2H)の活用も広がる。EVとエアコンなどの家電を組み合わせれば、電気が安いときはEVに蓄電しておき、ピーク時は蓄電しておいた電気でエアコンを動かす。そうすれば、大規模集中型電源にピークを与えずに済む。

 

CEMSというのは、IoTそのものである。インターネットの中に車やスマートハウス、スマートマンションなど、さまざまなものがぶら下がって、発電システムの各要所に入ってくる。

 

福岡県北九州市のスマートコミュニティ実証でもCEMSを導入し、九州電力の配電網を買って、3万3000キロワットのコージェネレーションを設置した実証地域では、自営線なので電気料金を変えることができ、託送料も非常に安くできる。こうした取り組みで、スマートコミュニティの実績を上げている。

自治体が「熱導管」を整備すれば、災害対策にもなる

では、日本で民間の投資を喚起できる基盤のエネルギーインフラとは何か。筆者は、熱導管ではないかと考えている。

 

日本では、まだまだ熱の利用が進んでいない。地域に賦存するエネルギーを事業化して投資を喚起するには、自治体が熱導管を整備することが望ましい。民間では、熱導管の運営になかなか手が出しづらい。自治体が主導すればコンソーシアムを組めるようになり、地域活性化につながっていくというわけである。

 

約1キロの熱導管を敷いた場合、約5億円のコストがかかるとする。そのうち、約4億円を国が自治体に対して補助する。残りの約1億円は、地銀に融資してもらわなければならないが、地銀としても、自治体が5分の4を所有するインフラであれば、融資しやすい。

 

これらに加え、ワイヤー&ファイバー(自営線と通信網)の導入も進めるべきだろう。パイプライン(ガス・熱導管)&ワイヤー&ファイバーの統合型インフラを整えることが重要である。自営線や通信網の敷設には熱導管ほどコストはかからない。熱導管と同時にこれらも整備し、熱導管の整備コスト+1億円程度と考えればよい。

 

自治体が入ることによって熱需要を集め、熱が流れやすい熱導管にしてくれるだろうという期待も持てる。地域の主な熱需要、例えば、市庁舎や市民病院、ごみ焼却施設、介護施設、学校、スポーツセンターなど、市民の生活に必要な施設を、直径約1キロ範囲内に集め、コンパクトにまとめる。

 

そして、民間経営のエネルギーセンターを造ればよい。熱導管は、ロードヒーティングに役立ち、コージェネレーションの排熱にも利用できる。余った熱を利用して植物工場を造るなど、新たなバリューチェーンのビジネスモデルの広がりも期待できる。

 

ごみ焼却炉の熱も使えるようになり、熱導管の託送収入も見込める。ビルにコージェネレーションを導入することで、熱をグリッドに流し込み、熱源のないところでも熱の供給を受け、冷暖房に使える。各家庭やビル内にプレート型のフィンを付ければ、吸収式冷温水機からの冷温熱を取り込むこともでき、暖房も冷房もできる。地域内のあらゆる場所で公共の熱を使えるようになり、冷暖房でも電気一辺倒のシステムではなくなる。

 

ここまで整備できれば、スマート&マイクログリッドが出来上がる。その地域周辺にメガソーラーがあったとしたら、この不安定性の電源を地域のグリッドに流し込め、地域内の融通も可能になる。

 

連載第1回で述べたように、分散型があれば、災害など緊急時にも電源が確保できる。2016年の熊本地震の際も、中圧ガス管の被害は発生せず、その強靭性が再確認された。中圧ガス導管を利用する大規模コージェネレーションが市庁舎に入っていれば、停電時もコージェネレーションで発電した電気が使える。熱で給湯ができ、入浴にも不便しない。

 

地域のエネルギーセンターには、蓄電システムや水素燃料電池システムなどを設置し、変電所を造り、地域のマイクログリッドと系統のグリッドを1点でつないで融通するようにすればよい。

 

従来、一軒家が点在しているような地域では、不安定性の電源をそれぞれ配電線と接続し、電気を逆潮流していた。しかし、マイクログリッドがあれば、今まで地域でバラバラに点在していた不安定性電源をひとつにまとめることができ、不安定性電源の導入が拡大しても、上流系統の安定性が保ちやすくなる。

 

ワイヤー&ファイバーが入るということは、IoTそのものだから、ピーク時には、その領域にデマンドレスポンスをかけられる。地域内でまず需給調整を行えるマイクログリッドがあることは、大規模系統を有する電力会社にとってもメリットがあるのである。

 

デマンドレスポンスによる節電分を逆潮し、比較的高値で売れば、地域自体の資産価値が上がっていく。そして、自治体主導であればこそ、例えば、地域に新しくデベロッパーが建てたマンションで熱を使ったら固定資産税を1割免除する、といったタックスクレジットも可能になる。

 

このような公共の「日本版シュタットベルケ」が呼び水となって、地方でも新しいビルや施設の建設が進むことも期待できる。好循環を生み出すウィン・ウィンモデルができれば、各地で同様の動きが起きていくだろう。

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